ロドコッカス属細菌の一種であるロドコッカス・エリスロポリスにおいて、非リボソームペプチド生合成遺伝子群と考えられる遺伝子が破壊された破壊株のコロニーの形状やバイオフィルムの形成の有無が、野生株と比較して大きく変化した。そのため、該当する非リボソームペプチド生合成遺伝子群によって生合成されるペプチド(様物質)が、ロドコッカスの形態変化を引き起こす形態変化誘導物質であると仮定した。昨年2023年度、野生株の菌体をエタノールを用いて浸透抽出を行い、得られた抽出物を最少培地に加えて遺伝子破壊株を培養し、培養液上清の濁度を計測した結果、培養液上清の濁度は野生株と同様に上昇し、また、見た目にも遺伝子破壊株の一部の細胞が野生株のように浮遊することが確認できた。したがって、野生株の菌体抽出物にロドコッカスの形態変化を引き起こす形態変化誘導物質が含まれていることが明らかとなった。そこで2024年度、野生株を最少培地10 Lで30度、24時間振盪培養させた培養液を、遠心分離により上清と菌体に分離した。上清を逆相ODSカラムを用いた水-メタノールによる段階抽出を行い、各画分を得た。同様にして各画分を最少培地に加えて遺伝子破壊株を培養し、培養液上清の濁度を計測した結果、100%メタノール画分に濁度上昇活性が観測されたものの、想定されたよりも大幅に活性値が低下した。また、遺伝子破壊株の浮遊を観測することができなかった。さらに、100%メタノール画分を用いてHPLCを用いた水-メタノールによるグラジエント抽出を行い、各画分を得た。同様にして各画分を最少培地に加えて遺伝子破壊株を培養し、培養液上清の濁度を計測した結果、すべての画分に濁度上昇活性が観測されなかった。以上の結果から、ロドコッカスの形態変化を引き起こす形態変化誘導物質は不安定で精製過程で分解してしまったと考えられた。
|