本研究の目的はウィルス増殖を抑制するI型インターフェロンの産出を誘導する核酸分子を構築することである。I型インターフェロン(IFN)は自然免疫受容体であるトール様受容体(TLR)がウィルスやバクテリア由来の核酸を認識したときに誘導される。特に、病原体由来のDNAを認識するTLR9については、2000年以降多くの研究成果が報告され、人工的に合成したCG配列を有する非メチル化一本鎖核酸(CpG ODN)がリガンド分子として機能することがわかっている。しかしながら、TLR9にCpG ODNが認識されると、I型IFNに加えて、インターロイキン6(IL-6)などの炎症性サイトカインも誘導する。炎症性サイトカインの過剰産生はサイトカインストームを引き起こし、感染症悪化のリスクが高まる。申請者は、この問題を解決するためにpHにより構造を変化させる核酸であるiモチーフ構造に着目した。iモチーフは、シトシン同士が pH5.0以下の酸性条件において3位窒素プロトン化を介して塩基対をつくることで形成される構造であり、iモチーフ構造にCpG ODNを導入することにより、中性環境である初期エンドソームではTLR9と結合してI型IFNを誘導し、酸性環境である後期エンドソーム/ライソソームではiモチーフ構造を形成することでTLR9と結合しない、即ち炎症性サイトカインを誘導しない核酸分子を構築を目指した。 前年度までの結果で、iモチーフのループ領域にCpG配列を導入した核酸(i-CpG ODN)は単独ではIL-6は誘導したものの、IFN-αは誘導しないこと、またカチオン性リポソームに静電的相互作用で結合させることでIFN-αは誘導される結果が得られた。本年度は、この現象のメカニズムの解明を実施した。
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