研究実績の概要 |
ポルチミン類は、海洋渦鞭毛藻から単離された新規な環状スピロイミン天然物であり、これまでに前例のない5員環イミンと架橋した大環状アセタールを構造的特徴とする。ポルチミン類は種々のがん細胞に対して低ナノモル濃度で選択的にアポトーシスを誘導し、強力な細胞増殖抑制活性を示す。本研究では、ポルチミン類の特異な化学構造と強力な生物活性に着目し、新規なアポトーシス誘導分子の創製を念頭に置き、ポルチミン類および構造類縁体の統一的な全合成と構造活性相関、機能解析研究を行うことを目的とした。 昨年度に引き続き、ポルチミン類の全合成研究に取り組んだ。Evansらの不斉Diels-Alder反応により四級炭素を含むシクロヘキセン環を高ジアステレオかつ高エナンチオ選択的に合成し、さらに数工程の変換を経てチオエステルフラグメントを合成した。一方、Evans不斉アルドール反応と光学活性ジフェニルプロリノールを有機分子触媒として用いたアルデヒドに対する不斉スタニル化反応を鍵工程として、αオキシアルキルスタナンフラグメントを合成した。両フラグメントをチオフェン-2-カルボン酸銅(I)を用いたStille型カップリング反応により連結し、目的とするカップリング生成物を単一の立体異性体として得ることに成功した。続くSwern酸化とGrignard反応によるエチニル基の導入をワンポットで行い、プロパルギルアルコールを単一のジアステレオマーとして得た。ノシル基の脱保護と3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジオールを用いたアルキンの部分還元を行って得られたトリエン体に対して、第二世代Hoveyda-Grubbs触媒を用いた閉環メタセシス反応により14員環骨格を有する鍵合成中間体を良好な収率で合成することに成功した。今後、酸素官能基の導入、環状イミンと架橋アセタール構造の構築を経てポルチミンの全合成を目指す。
|