研究課題/領域番号 |
21K19062
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
竹下 典男 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (20745038)
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研究分担者 |
織田 健 独立行政法人酒類総合研究所, 研究部門, 主任研究員 (10434466)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | コウジカビ / 麹菌 / Aspergillus oryzae / 核 / 酵素生産 / 育種 / 進化 |
研究実績の概要 |
コウジカビAspergillus oryzaeの核を蛍光標識し、培養経過と共に細胞内の核の数が増加する現象を発見した。このような核の増加は、他のAspergillus属においても前例がない。A. oryzaeで1~3日の培養で経時的に核が増加した。アミラーゼ活性を1~3日の培養で経時的に測定した。その結果、他のAspergillus属の糸状菌に比べて、A. oryzaeでは経時的なアミラーゼ活性の増加が顕著に見られ、核の増加と酵素分泌量の相関が示された。A. oryzaeの近縁種に、穀物に生育しカビ毒を生産するAspergillus flavusがあるが、A. flavusでは核の増加という表現型が見られないことを確認した。核の増加が育種の中で選抜された獲得形質である可能性がある。醤油と焼酎の醸造に利用されるAspergillus属の種にAspergillus sojaeとAspergillus luchuensisがある。これらの種も解析したところ、A. sojaeで核の増加が見られ、A. luchuensisでは見られなかった。このことは、異なる種でも育種の選抜の過程で収斂進化が起きている可能性を示す。A. oryzaeの中にも様々な株があり、清酒製造に利用される株や醤油製造に利用される株がある。A. oryzaeの清酒用のある株では核の増加が見られ、醤油用のある株では核の増加が見られなかった。つまり、異なる目的での育種と選抜により、同じA. oryzaeであっても株が異なれば、核の増加に関して異なる進化が起きたことを示唆している。ゲノム比較により原因遺伝子を特定することは出来なかったが、表現型が変化する条件を見つけたので、今後遺伝子発現解析を行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
様々な株での表現型を確認出来た。ゲノム比較により原因遺伝子を特定することは出来なかったが、表現型が変化する条件を見つけたので、今後遺伝子発現解析を行う。
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今後の研究の推進方策 |
A. oryzaeの実用株コレクションや転写因子破壊株コレクションでも網羅的に核増加のヴィジュアルスクリーニングを行なっており、ゲノム比較やトランスクリプトーム解析により、これまで知られていなかったA. oryzaeの高い酵素分泌能を特徴付ける新しい性質、つまり核の増加の分子機構を解明する研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
核が増加する条件での遺伝子発現解析を予定しており、その条件の確認に時間がかかったため遅れていたが、遺伝子発現解析に使用する。
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