研究課題/領域番号 |
21K19066
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 誠 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任准教授 (40409008)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | ミトコンドリアダイナミクス / 骨格筋 / ミトコンドリア / 老化 |
研究実績の概要 |
高齢化社会は世界規模で進行しており、健康寿命の延伸は喫緊の課題である。骨格筋は主要な運動器であり、加齢に伴う筋量・筋力の低下は健康寿命を短縮する重大なリスクファクターである。骨格筋はミトコンドリアに富む組織であり、その機能異常は様々な加齢性疾患の発症に関与する。ミトコンドリアダイナミクス(ミトコンドリアの分裂・融合)は、ミトコンドリアの恒常性維持に重要であることが知られている。加齢に伴い、ミトコンドリアダイナミクスの調節因子(OPA1、MFN、DRP1)の発現が低下する。また、これらの遺伝子の骨格筋特異的欠損マウスでは筋量低下や個体老化が惹起されることが報告されている。一方で、これらの遺伝子発現制御機構は殆ど解明されていない。以上の背景から、ミトコンドリアダイナミクスの遺伝子発現を制御する重要な発現制御因子の存在が示唆された。本研究では、ヒト骨格筋培養細胞を用いたゲノムワイドなRNAiスクリーニングを実施し、骨格筋ミトコンドリアダイナミクスを制御する新たな発現制御因子の同定を目指す。具体的には、各ミトコンドリアダイナミクス因子のプロモーター・エンハンサー領域の活性を評価できるレポーター細胞を樹立し、ヒトに対するshRNAを発現するレンチウイルスライブラリーを用いたスクリーニング実験を実施し、新たな発現制御因子の同定を試みる。さらにこの制御因子を活性化する機能性食品成分探索を行う。本研究成果から「食」による筋ミトコンドリアダイナミクスを介した新たな健康寿命の延伸の提唱に挑戦する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、筋ミトコンドリアダイナミクス調節因子の発現を制御する新たな転写制御因子の同定に向け、スクリーニング用細胞の構築を行った。まず、ジフテリア毒素とその受容体(DTR;diphtheria toxin receptor)を用いたスクリーニング系の構築を試みた。ヒト培養細胞では、内在性のジフテリア毒素受容体が発現しているため、CRISPR-Cas9システムを用いて受容体ノックアウト細胞を樹立した。ゲノムDNAシーケンスにより、標的領域でのフレームシフト、及び目的遺伝子(ジフテリア毒素受容体)の欠損が確認された。この細胞を用いて、さらにミトコンドリアダイナミクス因子のプロモーター・エンハンサー領域を含むジフテリア毒素レポーターの恒常発現株を樹立した。既知の発現制御因子によりレポータータンパク質の有意な発現変動が確認された。しかしながら、既知の発現制御因子のアゴニストを用いてスクリーニング実験の選別・回収について検討したところ、良好な結果を得ることができなかった。このため、蛍光タンパク質をレポーターとした新たな実験系への切り替えを行った。ヒト骨格筋培養細胞にミトコンドリアダイナミクス因子のプロモーター・エンハンサー領域を含む蛍光タンパク質レポーターの恒常発現株を樹立し、FACSを用いて既知アゴニストによる検討を行った。その結果、選別・回収に関して良好な結果を得ることができ、スクリーニング実験が可能と判断した。当初予定していたスクリーニング法は断念せざるを得なかったが、比較的短期間で実験系の切り替えに成功することができた。
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今後の研究の推進方策 |
ミトコンドリアダイナミクス因子に対する蛍光タンパク質をレポーターとした恒常発現株(以下、レポーター細胞)の確立が終了した。樹立したレポーター細胞の中で、まずは1つのミトコンドリアダイナミクス因子に関してスクリーニング実験を実施する。具体的には、ヒト遺伝子に対するshRNAを発現するレンチウイルスライブラリーを樹立したレポーター細胞に感染させる。本shRNAライブラリーにはレポーターと異なる蛍光タンパク質、及び薬剤耐性遺伝子が含まれているため、これらによって非感染細胞の除去が可能である。その後、FACSを用いて蛍光強度(つまり、ミトコンドリアダイナミクス因子の遺伝子発現レベル)に応じて細胞を分取し、一定の細胞数になるまでプラスチックディッシュ上で培養する。培養細胞をpoolの状態で回収し、ゲノムDNAを調製する。本実験で用いるshRNAライブラリーには、各標的遺伝子に対する特異的なDNA配列(バーコード配列)が含まれている。次世代シーケンサーを用いて、各蛍光強度の細胞群にどのようなバーコード配列が含まれるか解析する。スクリーニングより同定した因子に対して個別の強制発現、ノックダウン実験を行いミトコンドリアダイナミクス因子の発現が制御されているか検証する。またミトコンドリアダイナミクス、ミトコンドリアの機能などの検証を行う。培養細胞で同定された因子に関して、in vivoエレクトロポレーション法を用いて組織レベルでの解析を行う。具体的には、骨格筋ミトコンドリア機能や、骨格筋量などを検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度で予定費用を使い切る予定だったが、発注の関係で少額であるが残額が生じた。次年度では本残額分を含めた全費用を使用予定である。
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