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2021 年度 実施状況報告書

海洋プラスチック粒子は食物アレルギーのリスクファクターになるか?

研究課題

研究課題/領域番号 21K19083
研究機関大阪大学

研究代表者

武村 直紀  大阪大学, 薬学研究科, 講師 (50648699)

研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2023-03-31
キーワードプラスチック / 粒子 / アレルギー
研究実績の概要

近年、海洋プラスチック汚染についての世界的危機感が加速度的に増している。廃棄プラスチックが海に流出すると、海洋を漂う間に外的刺激の影響でマイクロレベル以下、さらにはナノレベル以下のものへと細片化する。これらが、ときに表面に有害物質を吸着し、海洋生物による生物濃縮を介して人体に入った際に起こす未知の健康被害について危惧され始めている。消化管は人体で最大の免疫組織であり、経口摂取した異物によって誘導された免疫応答は、消化管ひいては全身へと影響する。本研究では、プラスチック粒子が食物アレルギーのリスクファクターになると仮定して解析し、これまでのところ以下①‐③の成果を得た。
①マウスにナノプラスチックと少量の抗原を経口投与し続けたところ(経口感作モデル)、抗原のみを経口投与した場合と比較して抗原特異的なIgG抗体やIgE抗体の上昇が見られた。
②ナノプラスチックは強い細胞傷害活性を持ち、肥満細胞を刺激すると顆粒成分であるβ-ヘキソサミニダーゼやTNFの他に、IL-1α、IL-1β、IL-6など、アレルギー応答を増幅することが知られている炎症誘発因子が放出されることが分かった。ただし、脱顆粒を誘導する古典的な刺激である抗原抗体反応を誘導した場合に肥満細胞から放出される脂質メディエーターであるロイコトリエンC4は、ナノプラスチックの刺激ではほとんど放出されなかった。以上から、ナノプラスチックは抗原抗体反応で誘導される分子機序とは異なる様式で肥満細胞を刺激していることが推測された。
③ナノプラスチックが誘導する細胞傷害を抑えること、ならびに細胞傷害に関わる分子機序を解明することを目的として、当該反応を抑制する化合物を既知の細胞死に関わる因子の阻害剤、およびFDA承認薬ライブラリーから探索し、候補となるものを複数同定した。
また、これらに関連して学会ならびに学術誌において研究報告を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では、以下①‐④の実験を遂行することを目標としており、進捗について以下のように考える。
①プラスチック粒子が食物アレルギーの成立を亢進するのかを検証する;概要にて述べたように、プラスチック粒子の経口投与が食物アレルギーを増悪させる傾向が見られた。
②プラスチック粒子による食物アレルギー成立の亢進メカニズムを明らかにする;概要にて述べたように免疫細胞への影響について興味深いデータが得られている。引き続き、非免疫細胞の影響も併せて解析し、プラスチック粒子による免疫細胞・非免疫細胞への影響が食物アレルギーの増悪にどのように関わるのかを評価していく必要がある。
③プラスチック粒子による細胞傷害を抑える化合物を探索・評価する;概要にて述べたように、いくつかの候補化合物が得られている。引き続き、候補化合物の作用機序や、プラスチック粒子による食物アレルギーの増悪に対しての効果について、解析する必要がある。
④プラスチック粒子の表面修飾や材質を変えて試験する;目的に必要な材料の準備、加工がコロナ禍の影響で十分に進んでいない。
以上のように、設定した目標に対して一定の成果が順調に得られている。一方で、それぞれの目標の達成のために必要な課題も残されている。また、目標④に対して進捗が不十分である。以上から、「おおむね順調に進んでいる」と判断する。

今後の研究の推進方策

概ね、申請時の計画調書の通りに進める。①プラスチック粒子による食物アレルギーの増悪について、プラスチック粒子の表面修飾や材質を変えた場合の影響を評価することも含め、条件を変えながら引き続き検討を行う。②解析の結果、食物アレルギーの増悪に関与すると予想された細胞や液性分子について、その関与を評価するために、阻害剤、中和抗体、除去抗体のマウスへの投与、あるいはマウス個体における遺伝子欠損などを行う。③プラスチック粒子による細胞傷害を抑える候補化合物で処理した細胞をプロテーム解析し、発現や修飾が大きく変化している分子を探索する。もしくは化合物をビーズやビオチンで修飾し、結合する分子を解析する。候補となる標的分子の機能あるいは発現を化合物処理や遺伝学的手法で抑えた場合のプラスチック粒子による細胞傷害への影響を評価する。④表面修飾したプラスチック粒子の効果を評価する。

次年度使用額が生じた理由

本研究で使用したプラスチック粒子は市販されているポリスチレン製のものである。それ以外の材質から成るプラスチック粒子を外注により準備するには多額の費用が必要であるが、コロナ禍の影響で準備が進まなかった。代わりに費用が比較的抑えられる予備検討および探索中心の実験を優先して進めたことから、研究開始当初に予定していたよりも支出が少なくなった。
一方で、次年度では主に以下の理由のために、当初予定していたよりも多くの費用が必要であり、今年度の費用を充てたい。食物アレルギーの増悪に関与することが期待される細胞や液性分子の関与を評価するために必要な阻害剤、中和抗体、除去抗体を購入、あるいは遺伝子欠損マウスの購入・作製する。経口感作モデルの解析は2-3か月を要し、その間継続的に投与するために十分な量の阻害剤等を購入する必要がある。解析候補となる分子あるいは細胞は複数になると予想される。また、プラスチック粒子による細胞傷害を抑える候補化合物の標的分子の探索のためのプロテオーム解析も必要になる。複数種類の候補化合物について、それぞれ解析をする。

  • 研究成果

    (16件)

すべて 2022 2021 その他

すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (11件) 備考 (1件)

  • [雑誌論文] Nociceptor-derived Reg3γ prevents endotoxic death by targeting kynurenine pathway in microglia.2022

    • 著者名/発表者名
      Sugisawa E, Kondo T, Kumagai Y, Kato H, Takayama Y, Isohashi K, Shimosegawa E, Takemura N, Hayashi Y, Sasaki T, Martino MM, Tominaga M, Maruyama K.
    • 雑誌名

      Cell Rep.

      巻: 38 ページ: 110462

    • DOI

      10.1016/j.celrep.2022.110462.

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Orally desensitized mast cells form a regulatory network with Treg cells for the control of food allergy.2021

    • 著者名/発表者名
      Takasato Y, Kurashima Y, Kiuchi M, Hirahara K, Murasaki S, Arai F, Izawa K, Kaitani A, Shimada K, Saito Y, Toyoshima S, Nakamura M, Fujisawa K, Okayama Y, Kunisawa J, Kubo M, Takemura N, Uematsu S, Akira S, Kitaura J, Takahashi T, Nakayama T, Kiyono H.
    • 雑誌名

      Mucosal Immunol.

      巻: 14 ページ: 640-651

    • DOI

      10.1038/s41385-020-00358-3. Epub 2020 Dec 10.

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] Macrophage Response Driven by Extracellular ATP.2021

    • 著者名/発表者名
      Wang J, Takemura N, Saitoh T.
    • 雑誌名

      Biol Pharm Bull.

      巻: 44 ページ: 599-604.

    • DOI

      10.1248/bpb.b20-00831.

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] PRRを介した炎症反応における細胞骨格の役割2021

    • 著者名/発表者名
      田浦学, 武村直紀, 齊藤達哉
    • 雑誌名

      臨床免疫・アレルギー科

      巻: 76 ページ: 614-621

  • [学会発表] 刺激性微粒子による炎症応答を阻害する生薬由来化合物の解析2022

    • 著者名/発表者名
      生駒健太,武村直紀,田浦学,君嶋敦,荒井雅吉,齊藤達哉
    • 学会等名
      日本薬学会 第142年会
  • [学会発表] インフラマソームの活性化を阻害するプロスタグランジン類の解析2022

    • 著者名/発表者名
      武村直紀,西田周平,田浦学,齊藤達哉
    • 学会等名
      日本薬学会 第142年会
  • [学会発表] Nanaomycin類化合物はイミキモド誘導性乾癬を抑制する2022

    • 著者名/発表者名
      松井裕大,武村 直紀,田浦 学,齊藤 達哉
    • 学会等名
      日本薬学会 第142年会
  • [学会発表] 抗炎症作用を有する新規化合物の腸炎制御剤としての活性評価2021

    • 著者名/発表者名
      東優一,森田明典,西山祐一,村田貴嗣,酒井杏樹,金井昭教,谷本大河,坂井卓磨,中田健也,武村直紀,齊藤達哉,稲葉俊哉,椎名勇
    • 学会等名
      日本Cell Death学会第29回学術集会
  • [学会発表] 免疫調節作用を有する新規化合物は亜全身照射による腸死を防ぐ2021

    • 著者名/発表者名
      谷本大河,森田明典,西山祐一,村田貴嗣,酒井杏樹,金井昭教,東優一,國井大誓,坂井卓磨,貞富凌,王冰,下川卓志,中田健也,武村直紀,齊藤達哉,稲葉俊哉,椎名勇
    • 学会等名
      日本放射線影響学会第 64 回大会
  • [学会発表] インフラマソームの活性化を阻害するプロスタグランジン類の解析2021

    • 著者名/発表者名
      西田周平,武村直紀,田浦学,齊藤達哉
    • 学会等名
      第71回日本薬学会関西支部大会
  • [学会発表] 刺激性微粒子により誘導される細胞死の解析2021

    • 著者名/発表者名
      生駒健太,武村直紀,田浦学,小迫英尊,齊藤達哉
    • 学会等名
      第71回日本薬学会関西支部大会
  • [学会発表] 極小微粒子により誘導される炎症応答を阻害する化合物の探索2021

    • 著者名/発表者名
      潘逸羲,武村直紀,齊藤達哉
    • 学会等名
      第71回日本薬学会関西支部大会
  • [学会発表] Nanaomycin類化合物はイミキモド誘導性乾癬を抑制する2021

    • 著者名/発表者名
      武村直紀,松井裕大,田浦学,齊藤達哉
    • 学会等名
      第71回日本薬学会関西支部大会
  • [学会発表] 微粒子による現代病を防ぐ延命草茶成分Oridoninの解析2021

    • 著者名/発表者名
      生駒健太, 武村直紀
    • 学会等名
      日本食品免疫学会 第17回学術大会
  • [学会発表] Oridonin as a potential therapeutic agent for microparticle-induced inflammatory diseases2021

    • 著者名/発表者名
      Naoki Takemura, Manabu Taura, Tatsuya Saitoh
    • 学会等名
      第50回日本免疫学会学術集会
  • [備考] 大阪大学 大学院薬学研究科 生体応答制御学分野 HP

    • URL

      https://saitohtatsuya.wixsite.com/saitohlab

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公開日: 2022-12-28  

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