研究課題/領域番号 |
21K19090
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
竹川 薫 九州大学, 農学研究院, 教授 (50197282)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | エンドグリコシダーゼ / 糖転移 / ネオグリコプロテイン / 固定化酵素 |
研究実績の概要 |
治療用抗体として利用されているIgGタンパクのFc領域にはN-結合型糖鎖が存在しており、その糖鎖に付加するフコース残基の除去がエフェクター機能を増加させることが知られている。そこで本研究では均一な糖鎖構造を有する糖タンパク質を酵素合成するために、糖タンパク質糖鎖の脱フコシル化に必要な1,6-α-L- フコシダーゼとエンドグリコシダーゼ(ENGase)を担体に固定化して、効率的に脱フコシル化を行う技術について検討を行った。 本研究ではビフィズス菌由来のフコシダーゼと、フコース含有糖鎖を切断可能なENGaseである冬虫夏草由来Endo-CoMを用いた。両酵素をそれぞれNHS-Activated Agarose とCyanogen bromide-activated Sepharoseに固定化を行った。条件を検討したところ、両酵素ともNHS-Activated Agaroseに固定化後も活性を保持することが確認することができた。特にNHS-Activated Agaroseに固定化したフコシダーゼでは42%の活性を保持していた。さらに、両固定化酵素を用いてN-結合型糖鎖の脱フコシル化後のIgGについてLC/MSで測定を行ったところ、脱フコシル化された糖鎖が確認できた。ヒト由来の糖タンパク質には、3本鎖や4本鎖の多分岐の糖鎖を持つものも報告されている。そのような糖鎖の脱糖鎖と糖転移を可能にするために新たなエンドグリコシダーゼの検索を試みた。その結果、腸内細菌の一種であるBacteroides nordiiのゲノムに存在するエンドグリコシダーゼが多分岐糖鎖を切断する新規な特異性を有する酵素であることを明らかにできた。今後はこれらの酵素も固定化を試みて、糖タンパク質糖鎖部分のすげ替えに有効なシステムの検討を行いたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者はすでに糖タンパク質の脱糖鎖に重要な2つの酵素であるエンドグリコシダーゼとフコシダーゼについて様々な担体への固定化を試み、活性を保持する固定化酵素の調製に成功している。またこれらの固定化酵素を用いてIgG抗体の脱糖鎖が可能であることを明らかにしている。さらに多分岐複合型糖鎖を脱糖鎖可能な新たなエンドグリコシダーゼを発見して報告できている。以上のように今年度は当初の予定通り、順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は今年度新たに発見した多分岐糖鎖を切断可能なBacteroides由来のエンドグリコシダーゼ(Endo-BN)について、加水分解活性を極度に抑制する点変異体の作製を試みる。得られたEndo-BN点変異体の糖鎖転移活性について調べたい。さらにEndo-BNを用いて、これまで調製が不可能であった多分岐糖鎖のオキサゾリン中間体の合成を行う予定である。 もし、多分岐糖鎖のオキサゾリン中間体が得られたら、本化合物を用いてエンドグリコシダーゼによる多分岐糖鎖のタンパクへの転移を試みたい。糖転移に用いる酵素としては、Endo-BNをはじめ、これまで2本鎖糖鎖で糖鎖転移を確認できているEndo-CCやEndo-CoMなど、当研究室が保有しているエンドグリコシダーゼについても検討を行う予定である。さらに固定化の担体としてセファロースなどのゲルだけでなく、磁気ビースなどへの固定も試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は固定化するための酵素の調製に、予定よりも多くの時間を費やすことになり、全体的に固定化酵素の特性解析に時間がかかってしまった。そのために活性化セファロース以外の担体についての解析が進まず、予定していた固定化用担体や磁気ビーズなどを購入することができなかった。そのために次年度使用額が生じることになった。
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