研究実績の概要 |
ホルモンを産生・分泌する組織では、末端の標的組織よりも濃度が高い。インスリンは、膵β細胞で産生分泌され、筋肉や肝臓、脂肪組織で作用するが、膵β細胞自体にも作用する。膵β細胞と筋肉におけるインスリンの作用濃度域は異なるが、ともに生理作用の変化を感知して作用する。本研究の開始時までに、膵β細胞に発現するInceptorが、この違いを説明する分子であると報告された[Nature, 590, 326-331, 2021]。そこで、本研究ではInceptorが関与しない他のメカニズムの存在について検討すること、およびβ細胞におけるインスリンの生理作用に焦点を当てて研究を行うこととした。 ノックアウトマウスを用いた先行研究から、膵β細胞増殖や細胞死の抑制におけるインスリン受容体、インスリン様増殖因子1(IGF-1)受容体の重要性は明らかになっていたが、インスリンとIGF-1のいずれが作用しているのかは不明であった。膵β細胞株を用いて、小胞体ストレスの抑制作用を利用して検討した結果、生理的濃度下では、インスリンの方が、tunicamycinによって誘導される小胞体ストレスに起因した細胞生存能低下の抑制作用が強く、生理的に重要であることが示唆された。インスリンによる細胞生存能の低下はアポトーシスの抑制によることが示唆された。小胞体ストレスによるβ細胞死誘導時には、一般的なアポトーシスと異なって、ミトコンドリアの膜電位が上昇することが明らかになった。さらに、インスリンは小胞体ストレスによるミトコンドリア膜電位上昇を抑制することを見出した。
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