腸内常在菌叢は腸炎・肥満・糖尿病・自閉症をはじめとした様々な疾患と深く関連することが報告されており、その制御法を開発すれば人類の健康寿命は大きく伸長すると考えられる。現在、腸内細菌制御を目的として経口摂取される難消化性オリゴ糖(プレバイオティクス)が数多く上市され、2022年には60億ドルの市場に成長すると見込まれている。しかし、三大栄養素の残り2種である脂質・タンパク質に対応する難消化性脂質、難消化性ペプチドは腸内細菌制御剤として非常に有望であるにも関わらず、ほとんど研究されていない。 大豆由来難消化性ペプチドを糞便に混合して培養した結果、悪玉菌である可能性が示唆されているBacteroides属細菌を「狙い撃ち」で減少させる素材であることが示された。そこで、動物実験の実施に向けて、難消化性ペプチドを添加した飼料の検討を行い、飼料組成を決定の上、マウスへの投与試験を実施した。現在、難消化性ペプチドの経口摂取によるマウスの腸内細菌叢への影響を解析中である。 この研究の過程で、難消化性ペプチドをヒト糞便に添加して培養することで、その培養上清中にアグマチンが増加することを見出した。アグマチンは近年、健康増進効果が報告されているポリアミンの前駆体である。したがって、前駆体であるアグマチンをプロバイオティクス細菌等によりポリアミンに変換することで、難消化性ペプチドの経口摂取により腸内細菌のポリアミン産生を増強できる可能性が示唆された。
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