研究課題/領域番号 |
21K19099
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
高橋 俊二 国立研究開発法人理化学研究所, 環境資源科学研究センター, ユニットリーダー (30311608)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | ケミカルシグナル / 微生物二次代謝産物 / 天然化合物 / 生産誘導 / βーカルボリン / 放線菌 / 転写制御因子 / リベロマイシン |
研究実績の概要 |
二次代謝産物を生産菌することで知られる放線菌から、抗生物質、抗がん剤、免疫抑制剤、農薬となる有用化合物が単離されている。現在でも、強い生理活性を有する微生物代謝産物の重要性は非常に高く、生産誘導機構を解明し、放線菌ゲノム中に存在する生合成遺伝子クラスターを活性化することによって医薬・農薬シーズとなる天然化合物の創出が望まれている。これまでに、二次代謝物の生産を誘導するケミカルシグナルとして「β-カルボリン」を見出している。そこで、第一に「β-カルボリン」に応答する標的分子の作用機構を詳細に解析する。放線菌に進化的に組み込まれているシグナル受容機構を解明することによって、遺伝子操作を行わずに天然化合物の生産を誘導する手法を開発する。 1.作用機序の解明:低濃度のβ-カルボリン化合物(BR-1)を放線菌に添加・培養することによって、リベロマイシン生産が増強される。また、BR-1は、リベロマイシン生合成遺伝子クラスターに存在するLAL family転写制御因子(RevU)に結合することを見出している。しかしながら、遺伝子発現機構の詳細は未解明であるため、RevUが標的とするDNA結合する領域を解析している。 2.DNA結合誘導の分子基盤の解明:LAL familyの転写制御因子は、N末端に多様性が存在することから、シグナル受容領域と考えられている。また、N末端にはATP結合領域が存在することから、BR-1結合によるATP結合阻害によって、RevU構造を標的DNA結合型に誘導する機構を想定している。そこで、大腸菌型コドンを有する人工合成遺伝子を構築し、結晶構造解析に向けてRevU蛋白質を大腸菌で異種発現・精製を検討している。 3.BR-1を用いた新規天然化合物の探索:有用天然物探索源である放線菌にはLAL family転写制御因子群が存在する。そこで、BR-1およびその誘導体を添加して放線菌を培養したところ、生産が誘導される二次代謝物の取得に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでにBR-1およびその誘導体を添加して多様な種の放線菌を培養し、その中から生産誘導される二次代謝産物を見出すことに成功しており、ゲノム解読と遺伝子発現解析を進める準備が出来ている。また、本研究において、RevUタンパク質を精製し、結晶構造解析とBR-1結合機構を解明にする計画であるが、安定精製が困難であり更なる条件検討が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
β-カルボリン化合物 (BR-1)は、リベロマイシン生合成遺伝子クラスターに存在するLAL family転写制御因子(RevU)に結合するが、RevUとBR-1の結合形態は不明である。そこで、RevUタンパク質を安定に精製し、BR-1とRevUの共結晶構造を解析することによってBR-1結合形態を明らかにする。さらに、BR-1-RevU複合体形成時のDNAとの結合促進機構について考察する。 昨年度までに、BR-1およびその誘導体を添加して放線菌を培養することによって、生産が誘導される二次代謝産物を取得できている。一方、これらのすべてが、リベロマイシン生産誘導機構と同様にLAL family転写制御因子の活性化を経由するか否かについては、検証実験が行われていない。そこで、二次代謝物が生産誘導された異種放線菌の全ゲノム解読、及びRNA-seqによる全二次代謝生合成遺伝子クラスターの発現解析を行うことによって、二次代謝物の生産誘導機構を解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室の室員及び家族のコロナウイルス感染により出勤停止を断続的に行ったため、BR-1処理で二次代謝物が生産誘導される複数の放線菌のゲノム解読及びRNA-seq解析を次年度に集中的に行うように計画を修正した。
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