研究課題/領域番号 |
21K19100
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研究機関 | 公益財団法人地球環境産業技術研究機構 |
研究代表者 |
小暮 高久 公益財団法人地球環境産業技術研究機構, その他部局等, 主任研究員 (80422244)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | バニリン / コリネ型細菌 / 発酵生産 / 香料 / 毒性生産物 |
研究実績の概要 |
当該年度は、これまでにC. glutamicumにおいてバニリン高耐性化関連遺伝子(アミノ酸変異がバニリンへの高耐性化をもたらす遺伝子)として特定していた16遺伝子について各々の遺伝子破壊株を構築し、バニリン耐性への影響をプレートアッセイおよび液体培養により評価した。その結果、10遺伝子の破壊株において、元株と比べバニリン耐性の向上が確認されるとともに、1種の遺伝子の破壊によってはバニリンへの感受性が高まることが明らかとなった。さらにこれらの解析を通じて、遺伝子変異および遺伝子破壊がともにバニリン耐性に特に大きな影響をもたらす3種の遺伝子を特定した。 また、C. glutamicum培養時のバニリン添加に伴う遺伝子発現変動に関するRNA-seq解析(外注)を実施し、バニリン応答遺伝子を網羅的に特定することができたことから、バニリンに対する生理応答に関する考察や、バニリン応答遺伝子についての詳細な解析を実施可能となった。 一方、バニリン生産株の構築については、バイオマス由来炭素源の1種であるフェルラ酸の代謝変換によってバニリンを生産する菌株の構築を試みた。C. glutamicumはフェルラ酸をバニリン酸への変換を介して炭素源として利用可能であるが、野生型株においてはバニリン酸は炭素源として分解され、またバニリン酸をバニリンに変換する酵素も保持していない。そこで、バニリン酸の分解経路上の酵素遺伝子を破壊した株を宿主として用い、バニリン酸のバニリンへの変換を触媒する異種由来の芳香族カルボン酸還元酵素遺伝子を導入した株を複数構築した。その結果、Nocardia iowensis他由来の酵素の発現によりフェルラ酸からバニリンが生成可能な菌株を得ることができた。次年度以降、フェルラ酸からのバニリン生産の生産性向上、および糖から直接バニリンを生産可能な菌株の構築に取り組む予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
バニリン高耐性化関連遺伝子の各遺伝子破壊株のバニリン耐性への影響を調べ、10種の遺伝子の破壊によってバニリンへの高耐性化、または高感受性化がもたらされることを明らかにした。また、バニリン高耐性化関連遺伝子のうち、バニリン耐性の表現型への影響が特に顕著な3種の遺伝子を特定できた。 また、各バニリン高耐性化関連遺伝子の高発現株の構築も完了しており、今後バニリン耐性への影響を検証することで、各遺伝子機能に関する新たな情報が得られると考えられる。 また、RNA-seq解析の結果、C. glutamicumにおけるバニリン応答遺伝子を網羅的に特定できており、今後、バニリンに対する生理応答に関する考察や、バニリン応答遺伝子についての詳細な解析を実施可能となった。 さらに、異種遺伝子の機能発現により、C. glutamicumにおけるフェルラ酸からのバニリン生産株の構築に成功したことから、今後、バニリン耐性化がバニリンの発酵生産に与える影響を調べる上での基盤の一つが整った。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに、バニリン高耐性化関連遺伝子の破壊株および高発現株を構築し、複数の遺伝子について、その遺伝子機能の欠損がバニリンへの高耐性化や高感受性化をもたらすことを明らかにした。今後、構築済みの各バニリン高耐性化関連遺伝子の高発現株を利用することで、各遺伝子の高発現がバニリン耐性に与える影響についても調べる。 加えて、当該年度までに特定したバニリン耐性において特に重要な役割を果たすと考えられる3種の遺伝子については、個々の遺伝子機能に関する生理生化学的解析を通して、各遺伝子の改変がバニリンへの耐性化や感受性化をもたらす作用機序について明らかにする。またこれら3種のバニリン耐性関連遺伝子について重複遺伝子改変株を構築し、バニリン耐性のさらなる向上がもたらされるかどうかについて検証する。 また、C. glutamicumにおけるバニリン応答遺伝子に関するRNA-seq解析結果を詳細に分析し、バニリンに応答する遺伝子の機能分類および顕著な発現応答を示す遺伝子についての機能解析を通じて、バニリンがC. glutamicumの生理機能全般に及ぼす影響についての考察を行う。 C. glutamicumにおけるバニリン生合成経路の構築に関しては、バイオマス由来炭素源であるフェルラ酸がその分解経路上で代謝されて生成するバニリン酸をバニリンに変換する反応を触媒する異種由来の芳香族カルボン酸還元酵素(ACAR)の機能発現により、フェルラ酸からのバニリン生産の実証に成功している。しかしながら、ACARによるバニリン生成の効率が低いことから、前駆体のバニリン酸が高蓄積しており、今後はより高活性なACARの探索や酵素機能強化による生産向上を目指す。さらに、糖からのバニリン生産株を代謝改変により構築し、バニリンへの高耐性化によるバニリン生産向上を検証するための生産株側の基盤を整える。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の科研費の採択決定時期が3ヵ月程度遅れた関係で、予算の振り込み時期もずれ込んだため、物品購入を当初予定通りに進めることができなかった。また、コロナ禍の関係で、学会はウェブ開催となったため、旅費が発生しなかったことも理由としてある。 次年度に繰り越した分の予算については、次年度以降の物品購入等に重点を置いて適宜計画的に使用することで、収支状況が当初計画と大きくずれないように修正したい。
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