前年度に実施した、コリネ型細菌におけるバニリン応答遺伝子に関するRNAseq解析により得られた遺伝子発現量データを解析した結果、特に菌の生育が完全に抑制される50 mMの高濃度バニリンにより、バニリン非存在下と比べ10倍以上に著しく発現上昇した遺伝子が多数存在し、それらの中にはバニリン耐性変異株のゲノム解析から特定されていたバニリン耐性遺伝子の関与が考えられる呼吸鎖やグリコーゲン代謝といった生理機能との関連が推定される遺伝子が複数存在した。このことから、これらの生理機能がバニリンの毒性ストレス応答に関与している可能性が推察された。また、バニリン存在下で高発現していた遺伝子には、分子シャペロン、輸送体および転写制御因子をコードすると考えられる遺伝子も多数存在しており、バニリン応答との関連が示唆された。 また、バニリン生産菌の育種に関しては、バニリンの分解代謝に関与する遺伝子を破壊したコリネ菌宿主株に対して、異種由来の芳香族カルボン酸還元酵素(ACAR)遺伝子を導入し機能発現させることにより、バイオマス由来原料であるフェルラ酸の代謝変換によりバニリンを0.9 mMと微量ながら生産可能な菌株を構築した。バニリン生産性が低いことの要因を明らかにするため、本菌株によるフェルラ酸からのバニリン生成経路について、フェルラ酸から代謝中間体であるバニリン酸を生成する反応と、バニリン酸からバニリンを生成する反応に分けて反応効率を調べた結果、バニリン酸がACARによってバニリンに変換される最終反応がフェルラ酸によって強く阻害されることが判明した。そこでこの酵素阻害を回避するため、フェルラ酸からのバニリン酸生成とバニリン酸からのバニリン生成を別反応として連続的に行う2ステップ反応によるバニリン生産を試みた。その結果、フェルラ酸から以前よりも大幅に高濃度となる68 mMのバニリン生産を達成した。
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