研究課題/領域番号 |
21K19101
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
小出 陽平 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (70712008)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | イネ / 成長モデル / クローン解析 |
研究実績の概要 |
作物の器官の形を自在に操ることは、遺伝育種学や作物学において、未だ達成されていない未解決の問題である。しかしながら、個々の細胞の成長と、多細胞からなる器官の複雑な立体構造形成がどのように関与しているのかは明らかではなく、そのため、器官形状の自在な制御は未だ困難である。さらに、植物の立体形状は遺伝子と環境の双方によって複合的にコントロールされており、従来の遺伝学のみでは立体構造形成の原理をとらえることは困難である。本研究では、イネのコメの形を決定する頴花の形状をモデルケースとし、物理ベースの数理モデリングにより、器官の立体構造の形成原理を解明する。コメは世界の主要な食料の一つであり、その形は食味や収量性だけでなく、食文化などとも関連する重要な形質である。そのため、コメの形状を予測・操作できる技術はイネの品種改良や、食糧生産の安定化にとって重要であると考えられる。 そのために、まず、単一の遺伝子型かつ単一の環境下において、イネの頴花発生過程をシミュレートする物理ベースのモデルを構築する。発生過程にあるイネ頴花を、実体顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡により時系列的に解析し、立体構造の変形過程を、器官を形成する部位毎の生長率として定量する。定量データをもとに、最終的な形状を記述できるモデルを構築し、検証を行う。 さらに、遺伝子型情報とモデルパラメータの関係性を明らかにするために、ゲノム情報が既知のイネ品種を多数利用し、発生過程にあるイネ頴花の立体構造の変形過程を実体顕微鏡と共焦点レーザー顕微鏡を用いて解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度までに、単一の遺伝子型かつ単一の環境下において、イネの頴花発生過程における、頴花の形状変化を経時的に解析した。北海道で育成が容易なキタアケを用い、温度と日長が制御された温室内で、頴花の成長過程を観察した。昨年度までに合計450粒以上の頴花を観察し、頴花の成長方向に関する基礎的なデータの収集を行った。その結果、成長の方向で考えた時、頴花の成長は2つのステージに区分され、前半のステージでは、頴花の縦方向の成長が顕著であり、後半のステージでは頴花の横方向の成長が顕著であることがわかった。このことは既報の実験結果とも一致する。昨年度までは、幼穂長に対する穎花の成長という指標を用いていたが、単位時間当たりの穎花の成長をモデルに組み込む必要があった。そこで、時間経過に伴う幼穂長の変化を観察可能な実験系を構築し、長さの測定を行った。その結果、幼穂長はあるタイミングで急激に増加し、その後、一定の値となることが示された。この指標を用いて、3次元の穎花成長モデルを構築している。 さらに、成長様式をより詳細に観察するために、クローン解析を用いることを計画し、材料の作出を行った。現在蛍光タンパクをコードした配列を適切なベクターに導入し、イネへの形質転換を行い、導入個体において適切に遺伝子が発現することを確認した。 試薬価格高騰の理由から、細胞観察の実験を一部翌年度に行うことにしたが、そのほかの実験は計画通りに進んでおり、おおむね順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに、実体顕微鏡下で、頴花の観察を行っている。今後はこの観察に加え、共焦点レーザー顕微鏡を用いた、3次元データの構築を進める。さらに、キタアケ以外の系統についても観察を行い、頴花の発生パターンにキタアケと同様の傾向がみられるのか、調査を行う。並行して、クローン解析用の実験材料の作出を行い、細胞の分裂方向や成長方向と、器官立体構造の関係を明らかにする。加えて、解析結果を基に、頴花生長をシミュレートするモデル構築を進める。得られた研究結果をまとめ、学会発表を行うとともに、論文を投稿する。
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次年度使用額が生じた理由 |
クローン解析に関して、試薬の価格高騰の関係から必要なサンプル数を観察することができず、一部、次年度に観察を行うこととしたため。
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