研究課題/領域番号 |
21K19108
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
横山 岳 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (20210635)
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研究分担者 |
末次 健司 神戸大学, 理学研究科, 教授 (70748839)
伊藤 克彦 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80725812)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 単為発生 / ナナフシ目 / カイコガ科 / 卵巣卵 / 長距離分散 / 鳥類の捕食 / 鳥糞 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、未受精卵を体内に持つ昆虫が鳥に捕食され、排泄された未消化の卵の単為発生率やその単為発生卵から孵化した個体の遺伝形質から、どのようなメカニズムで次世代が生じたのかを解析することである。 鳥類に昆虫の未受精卵が食下された場合、鳥の体温および消化液の酸により未授精卵の単為発生が誘発されると考えられる。そこで、ヒヨドリにクワコの卵巣卵および蛾を摂食させた。その糞中から未消化の卵巣卵を回収した。その結果、卵巣卵では90%以上の卵が回収され、屋外でも未消化でほぼすべての卵巣卵が排泄されていると考えられた。これら糞中から回収した未授精卵696粒から8個体が孵化した(1.1%)。5頭が終齢幼虫まで発育し、そのうち2頭(メス)が成虫化した。1蛾あたり250~350粒の卵巣卵を持っていることから、屋外でヒヨドリにクワコ蛾が丸ごと摂食されると未消化の糞中の未授精卵から2~3個体が孵化すると推定された。 ナナフシの卵が鳥に食べられた際、一部の卵は無傷で排泄され、その後孵化することを実験的に明らかにしているが、このような現象は低頻度でしか起こらないため、自然条件下で実際に分布拡大に寄与しているのかについては未解明なままであった。そこで、ナナフシを日本全国から採集し、その遺伝構造を詳細に調査することで、自然界で実際に長距離分散が起きているかを検討した。 その結果、最大で683km離れた場所で同一のミトコンドリアの配列が確認されるなど、鳥による長距離分散を仮定しなければ説明できないパターンが多数発見された。従来、鳥と昆虫は捕食と被食の関係にあるとされ、鳥に捕食されれば昆虫は子孫もろとも生存の可能性を失うというのが一般的な考えであったが、今回の成果から、移動能力が乏しいナナフシのような昆虫では、鳥に食べられることで、むしろ自身で成しえなかったほどの長距離分散が起こりうることを明らかにした。
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