研究課題/領域番号 |
21K19109
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
鈴木 栄 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (80397017)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | GM植物 / 画像データ / フラボノイド色素 / プロモーター / モニタリング / センサ / ストレス処理 |
研究実績の概要 |
本研究では,病害虫被害や生理障害に対する超早期防除対策が可能になる,情報表示ディスプレイ化した葉を有する「GM(遺伝子組換え)バイオセンサー植物」の開発を目的とした.このGM植物は収穫対象ではなく,各種センサ機器と同等な生物センサとして生産地に一定間隔で栽培することを想定している.このシステムにより,収穫対象作物の遺伝子発現情報を画像データとして活用でき,直接サンプリングせずに遺伝子レベルの詳細なモニタリングが可能となる.将来的に本研究は,AI技術と融合させ,様々な分野で利用できる「葉のディスプレイ化技術」へも発展可能である.初年度は,主に以下の2項目について研究を実施した 1)植物の病傷害ストレス応答に関する細胞内シグナル伝達の初期に発現する遺伝子のプロモーターを,症状が表面化する前の初期センサ(センサプロモーター)として利用する.その候補として,シロイヌナズナ由来のAtDJ-1遺伝子のプロモーター配列を利用した.DJ-1遺伝子は,動物や昆虫にも存在し,ヒトのパーキンソン病の原因タンパク質PARK7と相同性が高く抗酸化タンパク質として知られている.AtDJ-1遺伝子の上流約2kbpをプロモーターとして単離し,後述の色素生合成遺伝子を制御した. 2)植物のフラボノイド色素は,多くの作物の葉で生合成されやすく,ストレス反応のひとつとして合成されることも多い.フラボノイド色素の一種であるアントシアニンは,緑色の葉で合成されると赤色になり認識されやすく,目視やカメラによる画像情報の取得などが容易になる.本研究では,シロイヌナズナ由来のアントシアニン生合成経路の転写促進遺伝子(Atpap1)を,センサプロモーターで制御した.Atpap1遺伝子は,単独で複数のアントシアニン生合成遺伝子の発現を促進し葉を赤色化できることが知られている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前述のセンサプロモーターは,細胞内での活性が比較的低いことも知られており,単独ではAtpap1遺伝子の発現量と色素合成量が低い可能性がある.そこで本研究では,転写活性化因子VP16またはVP64の利用を試みた.VP16とVP64は,ヒトに感染する単純ヘルペスウイルス由来のタンパク質で,遺伝子発現の転写を活性化できることが知られている.これらの配列をAtpap1遺伝子に結合することにより,活性の低いセンサプロモーターでも色素合成量を高めることができ,カメラ等で認識しやすくなると予想される. AtDJ-1プロモーターで制御したAtpap1遺伝子について,転写活性化因子のVP16またはVP64を追加したベクターをモデル植物のタバコに導入した.形質転換体当代(T0)において,UV,葉への過剰水分,葉の切断,コナジラミ(害虫)の接触,葉への塩酸塗布の各種ストレス処理を行なった結果,転写活性化因子を追加しない対象区では,過剰水分のみで葉の赤色化が観察された.一方,VP64区では,葉への過剰水分処理でのみ葉の赤色化が観察され,VP16区では,全ての処理区で葉の赤色化が観察された.したがって,転写活性化因子VP16を追加しAtDJ-1プロモーターで制御したAtpap1遺伝子を導入したタバコにおいて,各種ストレスに反応し,肉眼で観察可能な葉の赤色化が誘導されることがわかった.また,T0個体の自殖後代T1世代においても,同様の観察結果が得られたことから,次世代においても各種ストレスに反応することがわかった.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,センサプロモーターの種類を増やすことを進める.例として,アブシジン酸応答や病害性ストレス応答のシグナル伝達経路の関連因子であるAtMPK1遺伝子のプロモーター配列を利用する.また,それらのセンサプロモーターについて,様々なストレス処理を実施する.一方,葉の赤色化が肉眼で観察できるまでには,数日間を必要とすることから,今後は赤色化の早期化の改善や細胞レベルでのデジタルカメラでの画像認識などを検討する.
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