研究課題/領域番号 |
21K19121
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
日下部 宜宏 九州大学, 農学研究院, 教授 (30253595)
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研究分担者 |
門 宏明 九州大学, 農学研究院, 准教授 (30616412)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | カイコ-バキュロウイルス発現系 / 絹糸腺 / ゲノム編集 / 組換えタンパク質生産 |
研究実績の概要 |
本研究では、絹糸腺の組織分化を誘導するマスター遺伝子の同定を行い、その遺伝子を遺伝子編集技術により破壊することで絹糸腺のないカイコの作出を目的としている。その後、無絹糸腺カイコを作成し、バキュロウイルス-カイコ発現系において、無絹糸腺カイコにおける外来組換えタンパク質生産への効果を調べることを目標にしている。 まず、1齢、および2齢幼虫期のRNA-Seqのデータより、カイコ絹糸腺において高発現している遺伝子リストを作成した。その上位50遺伝子について、発現組織と推定される機能について解析し、その中から絹糸腺において高発現している5つの遺伝子について、CRISPER/Cas9を用いたゲノム編集により、遺伝子ノックアウトを行った。また、この5遺伝子に唯一含まれていた既知遺伝子であるBmSageノックアウトカイコは、無絹糸腺になることが2015年Xinらによって報告されているが、そのほとんどは蛹化の際に死んでしまうことが報告されている。そこで、追試、および、無絹糸腺カイコのコントロールとして、BmSageも遺伝子ノックアウトを行った。 Cas9タンパク質とそれぞれ遺伝子に対するgRNAを卵にインジェクションを行ったところ、BmSageを含む2遺伝子については、ノックアウトアレルを持つG1世代のカイコを単離できた。1遺伝子については、発生の途中で全個体死亡した。残りの2遺伝子についてはゲノム編集個体を得ることができなかった。 また、1細胞トランスクリプトーム解析については、使用する機器とデータについて、解析技術の習得に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
絹糸腺分化誘導を引き起こすマスター遺伝子の同定については、カイコ胚を構成する細胞の1細胞RNA-Seq用のサンプル調整を行なったが、細胞の生理状態を良好に保ったままでバラバラに分離することができなかったため、引き続き、条件検討を行うこととした。一方、2022年度に実施する予定であったゲノム編集による無絹糸腺カイコの作成については、前倒しで研究を進め、ノックアウトカイコを作製し、幼虫期における絹糸腺の形成異常を解析した。BmSageノックアウトカイコは報告通り、無絹糸腺カイコとなったが、なんとか死亡させずに系統化することに成功した。一方、ノックアウトに成功したもう1遺伝子については、見かけ上、絹糸腺形成に異常は見当たらなかったことから、継続して解析を行う予定である。この2項目の進捗状況より、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度、ノックアウトアレルを持つG1世代のカイコが取得できた2遺伝子については、両アレルに変異をもつG2世代のノックアウトカイコを使用し、実際に組換えバキュロウイルスを感染させることにより、タンパク質生産能を解析する。同時に、絹糸腺の形成不全について、組織、形態解析などにより詳細に解析を行う。また、選抜した5遺伝子の内、ゲノム編集個体を得ることができなかった残り2遺伝子について、引き続きノックアウトカイコ作出を行う。 また、当初の計画であったカイコ胚における1細胞トランスクリプトーム解析については、産化10時間後(約1700細胞 )、15時間後(約4500細胞)、24時 間後(約10000細胞)胚を使用して解析を行い、絹糸線の分化を誘導するマスター遺伝子の同定も試みる。計画としては、カイコ胚から細胞を分離し、10x Genomic社のChromium Controllerを用いてサンプル調整を行い、 RNA-seqにより1細胞ごとの遺伝子発現情報を取得する。発現している遺伝子の種類と発現量をもとにクラスタリングを行い、将来、絹糸腺に分化する細胞群を同定する。
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