雑草が除草や耕耘を掻い潜って繁殖できる本質的要素が種子発芽と開花結実のタイミングが柔軟であること、つまり生活史可塑性である。冬生一年草は越年草と一越草に分化している。一越年草は越年草に比べてより大きな生活史可塑性を獲得したことで、農耕地の雑草となり得ている。種子が冬期の低温に遭遇すると、越年草では二次休眠が、一越年草では種子春化が、それぞれ二者択一的に誘導される。二次休眠誘導に関わる遺伝子はDOG1であることが知られているが、種子春化の遺伝子は未知である。われわれはキク科一越年草ヒメムカシヨモギから種子春化候補遺伝子PSV1単離している。本課題において、この遺伝子を導入したシロイヌナズナPSV1高発現変異型株は、3回の表現型解析実験のうち2回では野生型株に比べて有意に早期開花となった。残りの1回でも有意差が検出されなかったものの早期開花傾向を示した。この結果から、PSV1が種子春化遺伝子である可能性が非常に高い。つづいて、ヒメムカシヨモギに近縁なキク科越年草オオアレチノギクのPSV1をシロイヌナズナに導入した。オオアレチノギクは種子進化の形質を有していないので、オオアレチノギクPSV1高発現変異型株が早期開花性を示さなければ、PSV1が種子春化遺伝子であることが決定的となる。キク科の種子春化遺伝子が、分子系統樹では遠いクレードに属するアブラナ科で花成に機能していることが明らかになれば、植物進化学的にも興味深い発見であると考えている。シロイヌナズナaccession Col種子は、1か月間の低温遭遇により二次休眠が誘導された。ところが、PSV1のホモログ遺伝子が高発現となったシロイヌナズナFOXライン株(RIKEN作成)の種子では、低温遭遇による二次休眠誘導が生じなかった。これは、低温による種子春化か二次休眠かの二者択一的誘導にPSV1発現が関与することを強く示唆している。
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