研究課題/領域番号 |
21K19129
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山羽 悦郎 北海道大学, 北方生物圏フィールド科学センター, 教授 (60191376)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 生殖系列キメラ / 借り腹生産 / 雑種 / 胸腺 / 始原生殖細胞 / 魚類 |
研究実績の概要 |
養殖種苗の生産において、借腹(代理親)による配偶子誘導の研究が進んでいる。しかしながら、ドナーの生殖系列細胞を移植し配偶子を得るには、 ドナーと近縁のホスト種を使わねばならず、その全面的な展開には困難が生じていた。遠縁種間では、ド ナー生殖細胞とホストの生殖腺体細胞の相互作用が機能しなかったり、体 細胞から供給される卵黄タンパク等に不調和が生じたりするからと されている。この問題 を克服するホスト個体の確立は、本技術において急務である。借腹生産において機能的な 卵を得るためには、生殖系列 キメラの体細胞要素(特に胸腺と肝臓)に、ドナー由来の細 胞を混合させる必要がある。本申請では、この課題を克服する、ホスト種の体内にドナー 種の生殖系列細胞の分化を補助する細胞を組み込んだホスト個体の誘導を目的としている。 1)ゼブラフィッシュを雌親種とし、種レベルで異なるパールダニオ、属レベルで異なるヒナモロコ、亜科レベルで異なるキンギョ、科レベルで異なるドジョウ、目レベルで異なるティラピアと雑種を作成して細胞質を蛍光標識し、その雑種胞胚の細胞を母親種であるゼブラフィッシュのホスト胞胚へ移植した。その結果、雑種細胞は、ホスト胚の形態形成に異常を起こすことなくホストの胚と共に分化することが明らかとなった。 2)最も異なるゼブラフィッシュ×ナイルティラピア間の雑種は、胞胚期に全て死亡した。しかし、この胞胚細胞を組み込んだゼブラフィッシュ胚では主に筋肉細胞に組み込まれ、さらに組織学的には前腎輸管に組み込まれていた。 3) ドナー細部を胸腺や消化器などの内胚葉系列の組織へと分化させるため、いくつかのサイトカインで胞胚期の細胞を処理し、ホスト胚へと移植する条件設定をゼブラフィッシュまたはキンギョの同種内の移植実験で行った。その結果、内胚葉系列へ分化させる条件が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究費への採択が7月上旬でキンギョの採卵期がすぎていた。そのため、キンギョにおける実験がわずかしか進まなかった。また、2種の配偶子を同時に合わせて採取することが困難なため、雑種細胞を内胚葉へ分化させる実験がほとんど行えていない。
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今後の研究の推進方策 |
1)同種内での移植で明らかになった内胚葉系列への誘導条件で、ドナー細胞がホストの胸腺へ分化したかどうかを、トランスジェニック系統、あるいは倍数性の異なる系統を用いて検証する。を雑種細胞で行い、内胚葉への分化を確認する。 2)ドナーの細胞が胸腺に組み込まれた場合、それによってドナー細胞に対してトレランスを誘導できたかを明らかにするため、キンギョと三倍体クローンフナ系統を用いて検証する。 3)同種内での移植で明らかになった内胚葉系列への誘導を雑種細胞で行い、内胚葉への分化を確認する。また、これらの体細胞キメラ個体を一定期間飼育し、その後に解剖してドナー細胞が維持されているかを確認する。 4)これまでに精子の形成は明らかになっているが卵の形成が明らかになっていない2種間(キンギョ→ゼブ ラフィッシュ、ドジョウ→ゼブラフィッシュ、ドジョウ→キンギョ)をターゲットとし、ドナー種のPGCsと両種の雑種細胞を混合して、ホスト 種の胞胚へ移植した生殖系列キメラを誘起する。これらの生殖系列キメラにおけるドナー種のPGCsの配偶子形成を追跡し、生殖腺の生殖生物学 的、遺伝学的な解析を行う。 5)内胚葉系列への細胞の導入では、ホスト胚の器官形成に影響が見られなかった。そこで、雑種細胞だけではなく、別種の胞胚細胞をホスト内胚葉に組み込めるかどうかを明らかにする。
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