養殖種苗の生産において、他種の配偶子を誘導する借腹(代理親)の研究が進んでいるものの、ドナー由来の配偶子を得るにはドナーと近縁のホスト種を使わねばならず、その全面的な展開には困難が生じている。借腹生産における機能的な宿主には、体細胞要素、特に内胚葉系列の組織である胸腺と肝臓にドナー由来の細胞を混在させる必要があると考え、本研究ではその技術の確立を目指した。 1)キンギョまたはゼブラフィッシュを材料とした同種/異種間での胞胚細胞の移植を行い、(1) 同種間で分離胚細胞をホスト胚へ移植した場合、無処理で移植すると外胚葉系列の組織へ、サイトカイン処理すると殆どが内胚葉に分化する、(2) サイトカイン処理/無処理細胞を混合して移植すると処理細胞の多くは内胚葉に、無処理細胞の多くは中胚葉組織へと分化、(3) 異種間では、サイトカイン処理なしのドナー細胞はホスト胚のなかで凝集塊を形成するが、サイトカイン処理した場合は細胞塊にならずに咽頭部を含む内胚葉組織へ組み込まれた。 2)ゼブラフィッシュ×パールダニオの雑種の胞胚細胞をサイトカインで処理し、ゼブラフィッシュ胞胚へ移植したとこと、雑種細胞はホストの形態形成を乱す事なく内胚葉系列へ組み込まれた。パールダニオ特異的なプライマーを用いたPCR解析により、処理細胞と無処理細胞は、少なくとも移植後17日まではホスト胚の中に残っていた。 3)免疫学的なトレランス状態を生み出す可能性を検証するために、遺伝的なクローンが生み出される3倍体フナの蛍光標識した胚細胞をドナーとし、同種のキンギョをホストとする体細胞キメラ個体の誘導を行った。その後、半年以上飼育した、咽頭領域に蛍光細胞が分布するキメラ個体に、ドナーと同系統のクローンフナの鱗を移植した。これらのキメラ個体は自身の鱗を受容したもののフナの鱗は受容せず、免疫的な寛容を生み出すことはできなかった。
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