研究課題/領域番号 |
21K19145
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
山野 隆志 京都大学, 生命科学研究科, 准教授 (70570167)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 相分離 / ピレノイド / CO2濃縮機構 / クラミドモナス / 葉緑体 |
研究実績の概要 |
葉緑体内に発達するピレノイドは、地球上の炭素固定の約3割を担い、生物相の一次生産を根幹から支えるオルガネラである。ピレノイドを陸上植物に導入し、光合成を改良することで作物の生産性向上につなげようとする研究が進められているが、液-液相分離(以下、相分離)する性質を持つピレノイドそのものの理解が十分ではないため成功していない。本研究の最終的な目標は、ピレノイドをモデルとした相分離オルガネラの消失に関わる因子を同定することである。これは、植物が陸上化に伴ってなぜピレノイドを消失していったのかという植物科学の大きな謎を明らかにするだけでなく、食糧問題の解決に向けた植物バイオマス生産の増大という喫緊の課題からも重要である。本年度の研究では、細胞分裂時にピレノイドの消失が異常になった変異株のスクリーニングを進め、相分離オルガネラの消失に関わる因子を同定の土台となる変異株を複数単離することを目的とした。具体的には、ピレノイドのマーカーとして利用されるルビスコの小サブユニットRbcS1とVenusの融合タンパク質を発現する株に対して、ハイグロマイシン耐性カセットの形質転換によるランダム変異導入を行った。ピレノイドの消失が異常になった変異株の表現型として、ピレノイドが細胞分裂時に消失しないことで、1)野生株よりも大きくなる、2)野生株よりも数が増える、3)葉緑体内の形成位置が異なる、ことが予測された。これを指標にしてスクリーニングを行ったところ、ピレノイドの数と位置に異常がある変異株を複数単離することに成功した。またそのうちの1株については原因遺伝子を推定するところまで進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標であったピレノイドの消失に関わる変異株のスクリーニングと複数の変異株単離に成功し、そのうちの1株については原因遺伝子の同定にまで成功したため、おおむね順調に進展している、と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度はピレノイドマーカータンパク質の蛍光を指標とした目視によるスクリーニングを進めたが、より効率的な変異株の取得のために、従来手法の約6,500倍の高速化を達成した変異細胞取得技術(AIセルソーター)を用いることも検討する。この技術は、細胞集団をマイクロ流体工学技術により整列させ、1秒間に100個以上の速度で個々の細胞の蛍光画像を取得し、深層学習を実装したAIプロセッサの分析結果に応じて、リアルタイムに目的の細胞を1つずつ分取することができる(Cell 2018, Nat Protoc 2019, Nat Commun 2020)。大規模なクラミドモナス変異細胞集団からピレノイドの消失を伴う分裂が異常になった変異株を単離し、相補実験により原因遺伝子を明らかにする。ピレノイドに含まれるルビスコとそれを繋ぎ止めるタンパク質EPYC1をin vitroで混ぜると相分離を起こすことが分かっていることから(Wunder et al. Nat Commun 2017)、大腸菌で発現させたピレノイド消失因子を混ぜることで相分離状態を解消できるかどうかをin vitroで調べる。また、変異株におけるピレノイドの相分離現象の破綻について、FRAPを用いた解析により検証し、相分離の破綻が光合成やCO2濃縮機構に与える影響について明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) コロナ禍の影響により、当初想定していた変異株スクリーニングの規模を縮小せざるを得なくなり、物品費の支出に変更が生じたため。 (使用計画) AIセルソーターなどの使用により変異株スクリーニングの規模を拡大し、来年度の物品費に補填する。
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