藻類の葉緑体内に発達するピレノイドは、地球上の炭素固定の約3割を担い、生物相の一次生産を根幹から支える重要なオルガネラである。ピレノイドを陸上植物に導入し、光合成を改良することで作物の生産性向上につなげようとする研究が進められているが、液-液相分離(以下、相分離)する性質を持つピレノイドそのものの理解が十分ではないため、成功には至っていない。 本研究の最終的な目標は、ピレノイドをモデルとした相分離オルガネラの消失に関わる因子を同定することである。これは、植物が陸上化に伴ってなぜピレノイドを消失していったのかという植物科学の大きな謎を明らかにするだけでなく、食糧問題の解決に向けた植物バイオマス生産の増大という喫緊の課題からも重要である。本研究課題では、ピレノイドの形成や消失が異常になった変異株のスクリーニングを大規模に進め、相分離オルガネラの形成や消失に関わる因子の同定の土台となる変異株を複数単離し、その解析を行った。具体的には、ピレノイドのマーカーとして利用されるルビスコの小サブユニットRbcS1とVenusの融合タンパク質を発現する株に対して、ハイグロマイシン耐性カセットの形質転換によるランダム変異導入を行い、スクリーニングを行った。 スクリーニングの結果、ピレノイドの数と位置に異常がある変異株を5株単離することに成功した。また、次世代シーケンサーを用いたゲノムリシーケンシングによりハイグロマイシンカセットの挿入部位配列の同定を進め、RNA結合タンパク質をコードする遺伝子を同定した。さらに、光合成に関する生理学的な表現型解析を進めた結果、ピレノイドの数を1つに規定することの生理学的意義が明らかとなった。
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