研究課題/領域番号 |
21K19151
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
嶋永 元裕 熊本大学, くまもと水循環・減災研究教育センター, 教授 (70345057)
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研究分担者 |
和田 実 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(水産), 教授 (70292860)
山田 雄一郎 北里大学, 海洋生命科学部, 講師 (80458744)
森 郁晃 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(高知コア研究所), 特別研究員(PD) (60849537)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 貧酸素水塊 / ダークカーボン / 食物連鎖 / 生物群集構造 |
研究実績の概要 |
長崎県大村湾は日本国内でも特に閉鎖度の高い海域であり、夏季になると湾中央部の海底に貧酸素水塊が発生する。しかし貧酸素水塊の持続性と強度は大村湾の場所によって異なる。大村湾中央部の海底直上では例年ほぼ溶存酸素が0になる貧酸素水塊が発生し、底生生物群集に多大な影響を与えている。研究初年度である本年度は、既存データの補強として、2017年度に本湾中央より湾奥に位置する南西部の測点で採集されたメイオベントスの優占分類群であるカイアシ類群集の季節変動を調べ、同年度に採集された大村湾中央部やその他の測点の群集組成との比較を行った。その結果、大村湾内の底生カイアシ類の群集組成は測点に関わらず、海底直上の溶存酸素濃度の違いに強く影響され、溶存酸素濃度が低下すると貧酸素に耐性があり、化学合成細菌を消費していると考えられるクレトデス類の優占度が高くなり、貧酸素が解消されると、浮遊幼生期を持つ分類群が増加する傾向があることを確かめた。一方、新たに調査対象とした八代海中央部から採集されたサンプルの解析の結果、この測点では夏季でも海底直上の酸素濃度は3ml/Lを下回らず、クレトデスが優占する群集構造は検出されなかった。これらの底生カイアシ類の安定同位体比・脂肪酸分析の本格的な分析に入る条件設定のため、レファレンス試料を代表から各分担者に送付し、検討を開始した。 また、化学合成細菌の分布検証の補強データとして、2015年度の初夏から秋に4回に分けて本湾中央で採取された堆積物由来DNA試料を用いて、16S rRNA遺伝子を対象としたアンプリコンシーケンスを実施し、微生物群集構造を明らかにした。直上水の溶存酸素濃度の変化に合わせて表層付近(0-5mm層)の群集構造が穏やかに変化するものの、一貫してダークカーボン固定を行う可能性の高いグループが堆積物中(0-15 cm)に優占している様子を確認できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、新型コロナ流行の影響もあり、代表・分担者が参加する合同調査航海などは行えなかったが、すでに保有している大村湾と八代海の生物標本を用いることで、本研究研究課題の仮説「貧酸素化が著しい海底下ではでは、貧酸素解消直後のダークカーボン固定活性化と貧酸素耐性生物(クレトデス類など)のダークカーボン摂食による還元環境の解消と食物連鎖の強化が、好気的生物(アシナガソコミジンコ類など)群集の回復に関わるのでは?」という仮説を補強するデータを取得できた。これらの微小な貧酸素耐性生物の安定同位体比・脂肪酸分析の分析プロセスの検討も開始した。
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今後の研究の推進方策 |
ダークカーボン固定活性を担う化学合成細菌・古細菌群と、より大型底生生物や魚類などの遊泳生物をつなぐハブとなるクレトデス類などメイオベントス類の安定同位体比分析・脂肪酸分析の本格的な分析に入る条件設定を年度初期に確立し、年度後半からこれらのメイオベントスから大型底生生物、魚類の安定同位体比分析・脂肪酸分析を本格的に開始する。(
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次年度使用額が生じた理由 |
試料の脂肪酸分析を行う予定であったが、分析に使用するガス類が品薄のため当該年度内の納入が間に合わないことから分析が行えなくなり、未使用額が発生した。令和4年度にはガスクロマトグラフィー分析に使用する消耗品類を購入する予定である。
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