本研究では、種子の酸素同位体比を利用した長距離散布の評価手法を発展させることで、過去の長距離散布が評価できる手法を開発する。具体的には種子の酸素同位体比と気象条件(気温・降水量)との関係を解明することで、過去の気象データと過去に採取された散布種子の同位体分析から過去の種子散布距離の推定を可能にする。この手法を用いて記録的な長距離散布の検出に挑戦する。記録的な長距離散布は稀に発生する大規模な気象イベントなどに付随して起こることが予想されるため、過去の記録的な台風が風散布樹木の種子をどこまで遠くに運んだかを評価する。
森林総合研究所で30年以上に渡ってサンプリングされてきた種子の抽出整理を複数樹種について行なったところ、風散布樹木であるイヌシデとミズメについて15年分以上の種子が利用できることが判明した。そのため、イヌシデとミズメの種子について酸素同位体比と気象条件との関係を解析した。その結果、イヌシデについては種子成熟期の平均気温との正の相関を検出した。ミズメについては気象との関係は認められなかった。正の相関が得られたイヌシデについても、相関係数が低く、気象データをもとにした過去の種子散布評価は困難であった。過去の種子散布評価を行うには、気象とより強い相関を持つ樹種を探索すること、種子からセルロースのみを抽出して分析することで測定値のばらつきを小さくすること、複数元素の同位体を用いることで種子散布距離の推定制度を向上させることなどが有効であると考えられ、今後さらに検証を進めていく必要がある。
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