研究課題/領域番号 |
21K19157
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
羽野 健志 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(廿日市), 主任研究員 (30621057)
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研究分担者 |
伊藤 真奈 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(廿日市), 研究員 (60735900)
大嶋 雄治 九州大学, 農学研究院, 教授 (70176874)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | クルマエビ / 殺虫剤 / 脱皮 / 薬物代謝 / 体内濃度 |
研究実績の概要 |
本研究では殺虫剤に曝露されたクルマエビ個体の中で、「脱皮しなかった個体」にフォーカスし、その特徴を分子・代謝レベルでの理解を深め、クルマエビの殺虫剤に対する適応戦略を明らかにする。計画している課題1~4のうち、2021年度課題1,2についてその概要を説明する。 【課題1】殺虫剤での「脱皮しない」戦略の検証:クルマエビへの毒性が強いフェニルピラゾール系殺虫剤フィプロニルを用いて脱皮への影響を検証した。濃度は96時間半数致死濃度(96h-LC50)に相当する20 および200 ng/Lとした。その結果、200 ng/L区において曝露終了時の死亡率は未脱皮個体に比べ脱皮個体で有意に高かった一方、フィプロニル体内濃度は未脱皮個体の方が脱皮個体に比べ低かった。以上の結果から、未皮個体では殺虫剤の体内濃度が低いことが生存率が高い理由の1つとして考えられた。 また、酸化酵素阻害剤とフィプロニルを曝露した結果、阻害剤無添加区と比べ生存率は変わらなかったがフィプロニルの代謝産物(フィプロニルスルホン)の体内濃度が減少していた。また、毒性試験の結果から、フィプロニルスルホンは、フィプロニル同様にクルマエビに対し強い毒性を示した。よって、フィプロニルの代謝には酸化酵素の関与が明らかとなったが、フィプロニルの場合、フィプロニルを代謝しても毒性軽減には至らないことが明らかとなった。 【課題2】「脱皮しない」個体に特徴的な遺伝子群の抽出:クルマエビを用いたフィプロニル曝露試験(20 および100 ng/L)を新たに行った。曝露個体を用い、遺伝子を抽出後、次世代シーケンサー(mRNA-seq)によるトランスクリプトーム解析を行った。現在フィプロニルの解毒代謝に関与する候補酵素の絞り込みや殺虫剤曝露下での脱皮・未脱皮個体間での脱皮制御関連遺伝子群の変動等、「脱皮しない個体」に特徴的な遺伝子群の抽出を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
先行研究で検証したネオニコチノイド系農薬に加え、作用機作が異なるフェニルピラゾール系殺虫剤フィプロニルにおいても、脱皮や薬物代謝が毒性軽減や生存戦略に深く関与していることを初めて明らかにした。さらに、フィプロニル及びその代謝物の体内濃度の変化にも脱皮は深く関与していることも明らかにした。 【実験2】は現在解析中ではあるが、総じて計画通り研究が進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に行ったトランスクリプトーム解析を進め、殺虫剤の解毒代謝に関与する候補酵素の絞り込みや殺虫剤曝露下での脱皮・未脱皮個体間での脱皮制御関連遺伝子群の変動等、「脱皮しない個体」に特徴的な遺伝子群を抽出する。さらに、トランスクリプトーム解析で候補酵素として推定された薬物代謝酵素の測定系の確立に着手し、本課題終了までにその酵素活性を殺虫剤曝露下での脱皮・未脱皮個体間で比較することを目指す。クルマエビの薬物代謝酵素群の詳細は不明であり、トランスクリプトーム解析におけるリファレンスライブラリの選定等に十分な検証が必要である。 併せて脱皮関連代謝物の測定系にも着手し、本課題終了までに薬物代謝酵素活性との関係を調べ、クルマエビが脱皮と薬物代謝をどう制御し生命を維持しているのか、その適応戦略の詳細を明らかにすることとしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) トランスクリプトーム解析の外注費が当初の予想以上に低コストで実施することができたため。 (使用計画) トランスクリプトーム解析に供する検体数、処理区数を当初計画より増やすなど、作業仮説の検証の頑強性を高めるために使用することとしている。
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