研究課題
【課題1】殺虫剤曝露下での「脱皮しない」個体の生存戦略の検証:クルマエビへの毒性が強いフェニルピラゾール系殺虫剤フィプロニル(Fip)を用いて脱皮と生存の関係を検証した。96時間半数致死濃度(96h-LC50)に相当する200 ng/L下で曝露した結果、曝露終了時の死亡率は未脱皮個体に比べ脱皮個体で有意に高かった一方、Fip体内濃度は未脱皮個体の方が脱皮個体に比べ低い傾向であった。以上の結果から、未脱皮個体では殺虫剤の体内濃度が低いことが生存率が高い理由の1つとして考えられた。【課題2】「脱皮しない」個体に特徴的な遺伝子群の抽出:クルマエビを用いたFip曝露試験(20 および100 ng/L)を行った。曝露個体を用い、total RNAを抽出後、次世代シーケンサー(mRNA-seq)によるトランスクリプトーム解析を行った。得られたシーケンスデータは、クルマエビゲノムにマッピング後、BLAST検索を経て発現量解析(GO解析、パスウエイ解析)を行った。その結果、Fip曝露により発現量が変動した薬物代謝関連遺伝子群、Fipに曝露された個体で未脱皮群と脱皮個体群で変動した脱皮制御関連遺伝子群の存在を確認した。【課題3】脱皮関連代謝物の測定:脱皮前のクルマエビでは、解糖系の中間代謝物(3ホスホグリセリン酸(3-PG)、ホスホエノールピルビン酸(PEP))が増加する。過年度に2022年度には、これらの代謝物をクルマエビ稚エビ頭胸殻から抽出・分析する方法を確立した。次に、Fip曝露個体について当該代謝物群を測定した。その結果、Fip曝露個体群でPEPが減少していた。これらの結果は、Fip曝露と脱皮関連代謝物の生成が関連していることを示している。すなわち、PEPの生成を抑制し「脱皮をしない選択」をすることは、クルマエビがFip曝露下での有効な生存戦略の1つであることが示唆された。
すべて 2023
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Comparative Biochemistry and Physiology Part C: Toxicology & Pharmacology
巻: 268 ページ: 109613~109613
10.1016/j.cbpc.2023.109613