本研究では,イカダモの培養時間の経過に伴う“においの変化”を嗅覚官能評価(におい強度,においの印象),および化学分析(GC-OおよびGC-MS)の技術で追跡し,“においセンシング培養(OSC)”の技術開発に向けた基礎的情報の提供を目的とした. 嗅覚官能評価の結果,クロロフィル蛍光値相対値とにおい指数相対値の間には有意な相関関係が認められたが,その相関関係は弱く,におい指数のみではイカダモの増殖ピークを捉え切れていないのが現状であった.一方で,“甘みのある”においの印象は,イカダモの細胞分裂活性と関連があることが推察された.またGC-Oをもちいてイカダモの特徴的なにおい物質である1-ノナナール,2-ウンデセナール,α-イオノン,β-イオノンのにおい活性の変化を追跡したところ,3週目から明確なにおい活性が感知され,その傾向は嗅覚官能評価と一致していた.加えてGC-MSノンターゲット分析の結果を主成分分析に供試したところ,3週目の培養液に特徴的なVOCsとしてエタノールや2-ペンチルフランなど,7種のVOCsが抽出された. 本研究で得られた結果をまとめると,GC-MSノンターゲット分析で検出された7種のVOCsは,e-noseにおいセンサーや可搬型GC-MS等の理化学的分析法によるイカダモの収穫適期や培養状態の判別に向けた指標物質として利用できる可能性が示された.また嗅覚官能評価で感知された“甘みのある”というにおいの印象はイカダモの細胞分裂活性の高さを示しており,イカダモの健康状態の指標物質として利用可能であると考えられる.一方で,“甘みのある”におい物質と推定されるα-,β-イオノンは理化学的分析での検出は困難であることから,嗅覚官能評価と理化学的分析を併せて活用することが必要であると考えられた.
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