研究課題
黄色ブドウ球菌は伝染性の乳房炎を引き起こす起炎菌である。また、黄色ブドウ球菌による乳房炎は難治性である。しかし、その治療のための抗生物質の投与は黄色ブドウ球菌の薬剤耐性化を誘発する。そのため、黄色ブドウ球菌の乳房炎を効果的に治療する方策が求められている。しかし、黄色ブドウ球菌の乳房炎がなぜ難治性なのか、その感染戦略の全容はわかっていない。そこで本研究では、“黄色ブドウ球菌は乳腺上皮細胞に寄生し、その感染防御バリアを細胞内部から崩壊させることで難治性乳房炎を引き起こす”と仮説を立て、研究を進めている。まず、培養下で黄色ブドウ球菌の感染モデルを作製するため、プロラクチンとデキサメタゾンを用いて乳腺上皮細胞の乳分泌と強固なタイトジャンクション形成を誘導した。続いて、このモデルの培地に蛍光標識した黄色ブドウ球菌を添加すると、培地中と細胞内に黄色ブドウ球菌が観察された。培地中の黄色ブドウ球菌は活発に動いている一方、乳腺上皮細胞内に寄生した黄色ブドウ球菌の動きは少なく観察された。また、感染した細胞では細胞形態が変化しており、細胞膜周辺のアクチン線維による裏打ち構造に「ほつれ」が生じていた。続いて、細胞外の黄色ブドウ球菌を抗生物質で除去し、その3日後に乳腺上皮細胞の乳産生能力とタイトジャンクションバリア機能を評価した。その結果、代表的な乳タンパク質であるカゼインの産生量減少とタイトジャンクション構成タンパク質の質的変化が確認された。また、黄色ブドウ球菌由来毒素であるリポタイコ酸が培地中に存在した場合においても乳腺上皮細胞の乳産生能力とタイトジャンクションの変化が段階的に起きており、特に3細胞の接点(Tricellular region)におけるタイトジャンクションの「ほつれ」が早期に起きていた。以上の結果より、黄色ブドウ球菌は細胞内外から乳腺上皮細胞の性質を変化させることが示唆された。
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Experimental Cell Research
巻: 420 ページ: 113352~113352
10.1016/j.yexcr.2022.113352