鶏卵(鶏胚)は循環器系が未構築の間、また、孵化に向けてエネルギー要求量が増加する時期においてマイルドな低酸素状態に陥りやすい。この間、ミトコンドリアがどのようにしてエネルギーを産生しているのか、酸素に代わる電子受容体として含硫アミノ酸の代謝産物を利用する硫黄呼吸に着目し、ニワトリの胚発生における同呼吸の関与を調べた。前年度と同様に、通常酸素濃度(20%)および鶏卵の酸素環境に近い酸素濃度(15%)でニワトリ繊維芽(CEF)細胞を培養し、含硫アミノ酸であるメチオニンおよびシスチン(M/C)を添加した。アミノ酸フリー培地に上記アミノ酸を添加した結果、酸素濃度に関わらず、CEFの細胞生存率が有意に増加した。一方、M/C以外のアミノ酸を培地に添加した場合の細胞生存率は非添加区とほとんど違いが認められなかった。アミノ酸添加培地に対して、半量、2倍量のM/Cを添加したが、CEFの細胞生存率に濃度依存効果は認められなかった。また、CEFに電子伝達鎖複合体II/IIIの阻害剤を添加するとM/C添加時の細胞生存率は低下したが、この低下は複合体Iの阻害剤添加時では一部抑制された。なお、CEFより単離したミトコンドリアに対してM/Cを添加しても酸素消費は生じなかった。以上の結果から、CEFにおける含硫アミノ酸の利用は複合体IIへの電子供与が関与する一方で、その供与体前駆物は細胞質側で産生されていることが示された。結論として、CEF細胞ではマイルドな低酸素環境下で含硫アミノ酸をエネルギー基質として少なからず利用しているが示されたが、その役割は補助的である可能性が推察された。
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