本研究では、我々が予備実験で発見した機能的な非遺伝子ゲノム領域にランダムな切除変異を導入した複数のゲノム編集マウスを作出・解析することにより、生体内での当該領域の機能を明らかにすることを目的としている。 昨年度に構築した機能的な非遺伝子ゲノム領域を一定の間隔で標的とする約20種のsgRNAから構成されるsgRNA発現ライブラリーマウスのES細胞に導入した。このES細胞集団からシングルセルクローニングを行うことで90個近いES細胞クローンライブラリーを構築することに成功した。これらのES細胞クローンライブラリーのそれぞれが有するsgRNAの種類とその数をアンプリコンシーケンス解析した結果、最大で16種類のsgRNAを有するクローンから1つのsgRNAのみを有するクローンが存在していた。次にこれらのES細胞クローンにCas9遺伝子を導入し、機能的な非遺伝子ゲノム領域にランダムな変異を導入した。各ES細胞クローンにおいて、導入されたsgRNAを頼りに各標的サイトにて変異が生じているのかをPCRおよびアンプリコンシーケンス解析で評価した結果、当初の予定通りにindel変異や領域欠損変異がsgRNA依存的に半ランダムに導入されていた。 ES細胞だけでなく受精卵でも同様の系の構築に取り組んだ。受精卵ゲノム編集ではモザイクや想定以上の大規模欠損、そして導入できるRNAの総体的な量の制限から、ES細胞を用いた系に比べ、ランダム変異導入効率は著しく低かった。 以上の結果から、本系は、今のところはシングルセルクローニングが可能で、かつ、遺伝子導入効率が比較的高い細胞に限られるものの、十分に機能的な非遺伝子ゲノム領域にランダムな切除変異を導入できると結論づけた。
|