研究課題/領域番号 |
21K19193
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
加藤 大智 自治医科大学, 医学部, 教授 (00346579)
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研究分担者 |
山本 大介 自治医科大学, 医学部, 准教授 (90597189)
水島 大貴 自治医科大学, 医学部, 助教 (50843455)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 吸血昆虫 / 腸内細菌叢 / サシチョウバエ / ハマダラカ / リーシュマニア / マラリア |
研究実績の概要 |
吸血昆虫の中腸は、吸血によって哺乳類から取り込まれた病原体がはじめて遭遇する昆虫の体内環境で、ダイナミックな環境変化に適応して生存するためには様々なバリアが存在する。本研究では、吸血に伴って吸血昆虫の中腸に形成される囲食膜などのバリア機能に着目し、それが形成されるメカニズム、病原体侵入阻止に果たす役割の解明を目指す。本年度の研究実績の概要は次の通りである。1)抗生物質投与によってマラリア原虫の感染が亢進したハマダラカで発現変動する遺伝子を網羅的に解析した。これらの蚊では、マラリア原虫の感染防御に働くと報告されている免疫関連遺伝子群の有意な発現変動は見られなかった。一方、囲食膜関連遺伝子群や、近年他の節足動物から発見された新規抗菌ペプチドの相同分子の発現低下を認めた。2)抗生物質を処置した蚊やサシチョウバエにおいて、囲食膜の形成や機能(透過性)、囲食膜関連遺伝子の発現を検討した。抗生物質の投与によって囲食膜形成が阻害されていることが示唆された。3)コロニー飼育している3種のサシチョウバエの腸内細菌の解析を行った。このうち2種は近縁で同種の原虫を媒介し、残りの種は異なる原虫種を媒介する。同じ餌を用いて同じ環境で飼育しているにも関わらず、サシチョウバエ種によって腸内細菌叢が異なること、近縁種では類似した腸内細菌叢を持つことが明らかになった。このことは、サシチョウバエの腸内細菌は種による遺伝的背景によって規定されることを示している。4)血液や培地などの吸血成分が囲食膜等のバリア形成に及ぼす影響を検討するため、蚊やサシチョウバエの人工吸血系の改良を行っている。吸血装置、膜の選択、原虫のステージなどを組み合わせて最適な方法を検討中である。5)解剖することなく原虫の発育を観察するため、蛍光タンパク質発現リーシュマニア原虫を感染させたサシチョウバエを透明化して観察する系の確立を試みている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗生物質投与によってマラリア原虫の感染が亢進したハマダラカにおいて、遺伝子発現変動を網羅的に解析した。これらの蚊では、囲食膜関連遺伝子群の発現低下がみられた。また、抗生物質を投与した蚊では囲食膜の形成が阻害されていることが組織学的に示唆され、さらには、種々のサイズの蛍光ビーズを使った実験から、囲食膜の透過性亢進が認められた。これらのことは、抗生物質の投与によって囲食膜のバリア形成が弱まり、マラリア原虫の感染増強つながることが示唆された。一方、予備的実験ではあるが、血液ではなく培地を用いてリーシュマニア原虫を感染させたサシチョウバエでは、腸内細菌の増殖が悪い一方、原虫感染効率が上がった。これらのサシチョウバエでは囲食膜の形成が悪いことから、上記の蚊で得られた結果は、サシチョウバエでも同様と考えられた。これらの結果から、吸血昆虫の腸内細菌は囲食膜形成に重要な役割を担っていると考えられた。コロニー飼育している3種のサシチョウバエの腸内細菌叢を明らかにした。同じ餌を用いて同じ環境で飼育しているにも関わらず、サシチョウバエ種によって腸内細菌叢が異なること、近縁種では類似した腸内細菌叢を持つことが明らかになった。このことは、サシチョウバエの腸内細菌は種による遺伝的背景によって規定されることを示しており、異なる病原体媒介能にも関与することが示唆される。血液や培地などの吸血成分が囲食膜等のバリア形成に及ぼす影響を検討するため、蚊やサシチョウバエの人工吸血系の改良を行っている。吸血装置、膜の選択、原虫のステージなどを組み合わせて最適な方法を検討中である。また、解剖することなく原虫の発育を観察することを目的に、蛍光タンパク質発現リーシュマニア原虫を感染させたサシチョウバエの透明化を試みている。感染14日後のサシチョウバエで、感染型原虫がサシチョウバエの中腸上部に集簇していることが観察された。
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今後の研究の推進方策 |
1.囲食膜形成における腸内細菌の役割:血液または液体培地を摂取させた吸血昆虫、抗生物質投与後に吸血させた吸血昆虫の囲食膜の形成過程を組織学的に検討する。また、囲食膜構成成分の遺伝子発現を経時的に定量するとともに、タンパク質レベルでも検討を行う。 2.病原体感染における囲食膜のバリア機能の解析:血液存在下で原虫を感染させる際に、キチン分解酵素やキチン合成阻害剤を投与して囲食膜を破壊したり、Per1などの囲食膜の構成成分をノックダウンしたりすることで原虫感染が増強するのかを検討する。また、血液非存在下(液体培地)および抗生物質投与後に血液存在下で原虫を感染させた吸血昆虫における囲食膜の発達と原虫の発育・増殖について経時的に解析し、病原体侵入に対する囲食膜の役割を検証する。 3.サシチョウバエ、ハマダラカの遺伝子ノックダウン、遺伝子改変の確立:吸血昆虫、特にサシチョウバエでは遺伝子ノックダウンや遺伝子改変技術は確立されていない。現在検討中であるが、効率よく発現抑制や遺伝子改変ができる条件を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度内に予定していた受託解析が年度を超えたこと。試薬を節約して使用したことなど。
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