家畜の牛の繁殖において、「性選別」の実現は生産性向上の切り札であり、実際に、X精子とY精子のわずかなDNA量の違いを蛍光染色で読み取り選別した繁殖用精液が広く用いられている。一方、学術的には近年、遺伝子発現の制御に関する研究が進んでおり、これを応用した性選別技術も報告されるようになってきている中、普及につなげられるかどうかは、繁殖用精液としての量産技術と併せて開発できるかどうかにかかっている。つまり本研究は、性選別技術そのものというよりは、量産性に重点を置いた繁殖用「性選別精液」の生産技術にかかるものである。この生産技術の検討における基本方針として、X/Y精子分離の正確さより処理量(処理精子数)である点を重視した計画とした。化学工学のスケールアップの基本である相似則に、特定の無次元数の重み付けを下げるなどの工夫をしながら、X/Y選別の「ほどほどの」精度と処理量のバランスを図ろうというものである。この研究では、流体技術を用いた運動性精子選別技術を用いている。単に動いているかどうかだけではなく、運動速度や泳ぎ方ごとに選別することができる性能を活用しているため、X精子・Y精子いずれかだけを対象として運動性を下げたり上げたりしつつ、運動性精子選別技術を適用している。 2年間にわたり検討を行ったが、基本的な進め方は、X精子とY精子の運動性増進の時間差を活用する方法と、特定の薬剤によりX精子またはY精子の運動性のみを増進または減る方法を併用する検討を行った。このような2つの方法の併用は、どちらか一方だけでは十分な性選別性能が確保できないと考えたからである。一方で、組み合わせることにより、検討すべき条件の組み合わせは膨大になるので、効率的に探索する方法も含めた研究となった。社会ニーズの観点から、X精子の選別を中心に進め、運動性増進の薬剤の量・種類・時間の情報を整理することができた。
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