研究課題/領域番号 |
21K19200
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
柴田 穣 東北大学, 理学研究科, 准教授 (20300832)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
キーワード | 単一分子分光 / RNAプローブ / 励起スペクトル / 過渡的中間体 / 光化学系修復 |
研究実績の概要 |
本研究では、100以上の色素を結合した複雑な構造を持つ光合成タンパク質のAssemblyの最初期に出来る複合体の分光解析を目指す。そのために、ターゲットとする光合成タンパク質のmRNAと相補的な配列を持ち、かつ蛍光色素でラベル化されたRNAプローブ分子を用いて、リボソームから排出された直後の光合成タンパク質を検出するとともに、単一分子分光法を用いてその分光解析を行うことを目指している。初年度の研究により、目的に合致するRNAプローブの設計を行い、コントロールとして用いるアンチセンス配列のものと一緒に購入した。同時に、同じ配列のDNAプローブや、RNAの安定性を向上させたLNA分子を含むプローブについても購入した。これまでに、これらのプローブを用いて、準備段階の実験を進めている。具体的な実験手順は以下の通りである。1)ターゲットとなる緑藻クラミドモナスを、光合成タンパク質が損傷する強光に一定時間晒して光合成タンパク質が活発に合成される条件とする。2)その後、細胞からチラコイド膜を抽出しRNAプローブを添加してインキュベートする。この際、ハイブリダイズしないはずのアンチセンス配列を添加したサンプルをコントロールとした。3)沈殿させたチラコイド膜の蛍光スペクトルを測定し、プローブの蛍光がセンス配列を持つプローブを添加したサンプルでコントロールサンプルより有意に強い蛍光を示す条件を探索する。この準備実験の結果、想定通りにプローブの蛍光が見られることが確認された。現在、より高いプローブ蛍光が見られる条件の探索を行っている。 一方、測定装置の改良も行ってきた。これまで、励起スペクトルを迅速に測定できる顕微鏡を開発してきており、この装置を本研究でも使用できるようにするため、極低温での使用を可能にする改造を行った。この結果、装置は極低温において順調に稼働している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一段階の目的であったRNAプローブのチラコイド膜への有意な結合は、ある程度確認することができた。まだまだよりよい条件を探索して実験条件を最適化していくことが必要であるが、本研究の実現が可能であることに手ごたえを掴んだと言える。単一分子の蛍光分光測定には、研究代表者は多くの経験を持っており、第一の関門は突破したものと考えている。当初RNAプローブでの実験をメインに想定していたが、DNAプローブを用いた実験でも同じ効果が確認できた。より安定で扱いやすく安価でもあるDNAプローブが使用できることを見出したことは、今後の研究を進めていく上で大きなメリットとなる。顕微鏡を極低温にて動作させるように改造することに関しても計画は順調に進んでおり、既に改造した装置を用いて(本研究のターゲットとなる分子ではないが)光合成タンパク質の単一分子分光の実験を行い期待された成果が挙がってきている。
|
今後の研究の推進方策 |
準備段階の実験は概ね順調である。次の段階として、RNAプローブを結合したチラコイド膜を界面活性剤により光合成タンパク質をミセル化して可溶化する条件の検討を行う。ターゲットとなる合成直後複合体の状態を保ちつつ可溶化する条件を、界面活性剤の濃度やインキュベーション時間などの関数として最適な条件を探索する。可溶化条件の評価には、単一分子蛍光測定を用いる。RNAプローブを励起するのに適したレーザーおよびダイクロイックミラーを新規に購入する。既に様々な波長帯の半導体レーザーを導入するためのコントローラを昨年度に設置済みであり、比較的安価な半導体レーザーのチップと温度コントローラの購入を予定している。また、昨年度末に顕微鏡下で蛍光寿命を測定するTCSPCボードが故障したが、本研究の推進にも必要な装置であり本助成金にて修理費用を支払う予定である。 現在主なターゲットとしているタンパク質についての研究が進展した場合には、新たなターゲットタンパク質のためのRNAプローブも設計、購入して研究の幅を広げる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で国際会議を含む出張旅費が計画より大幅に減ったため、次年度使用とした。
|