研究課題/領域番号 |
21K19203
|
研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
大学 保一 公益財団法人がん研究会, がん研究所 がんゲノム動態プロジェクト, プロジェクトリーダー (80619875)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
キーワード | DNA複製 / 転写 / DNAポリメラーゼ |
研究実績の概要 |
研究代表者は、本研究一年次にリーディング鎖・ラギング鎖合成それぞれを担うPolε(イプシロン)とPolα(アルファ)の合成プロファイルを用いて複製フォーク開始・停止領域を解析する方法を確立した。本年次は、この方法を用いて、遺伝子転写による複製フォーク動態への影響を検証した。特に、個々のDNAポリメラーゼ機能、複製開始・停止を示すゲノムプロファイルのパターンを、転写量によってグループ化した遺伝子群に分けて検証し、転写による影響を明確化する解析作業を実施した。 転写開始領域(Transcription Start Site: TSS)付近においては、複製開始反応がおきる一方で,その領域を通過する複製フォークの進行が遅延・停止することが示された。このことは、転写開始領域付近に結合したRNAポリメラーゼが複製フォークの進行に影響を及ぼすことを示唆する。 転写領域(gene body)を進行する複製フォークにおいて、転写と逆方向に進む、すなわち、非転写鎖を鋳型とする、DNA合成の効率が低下することを発見した。この現象は、RNAポリメラーゼが転写領域を通過する際に、非転写鎖が単鎖DNAとして露出し、配列特異的な立体構造や化学修飾によるDNA損傷が蓄積し、引き起こされたと考えられる。現在まで、がんのゲノム情報の解析から、非転写側のDNA損傷が変異の誘発の原因となることが示されている。本研究の結果はこの点と整合性があり、転写領域のDNAポリメラーゼ動態がゲノム安定性において重要な要素であることを示した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
より高精度に遺伝子転写による複製への影響を解析するために、追加の実験・解析が必要となった。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究では、リーディング鎖、ラギング鎖合成に関わるDNAポリメラーゼの機能をゲノム科学的に解析し、遺伝子転写のDNA複製への影響を同定することできた。その一方で、その影響の原因となる転写のプロセスや因子ついての詳細は明らかになっておらず、今後、転写に関わる因子の変異体や阻害剤などを使用した実験を実施し、研究を継続する必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
より高精度に遺伝子転写によるDNA複製への影響を解析するために、追加の実験・解析を行う必要が生じた。そのために必要な消耗品、および、DNA配列解析の費用として使用する。
|