研究課題/領域番号 |
21K19204
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
高橋 康弘 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (10154874)
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研究分担者 |
中井 由実 大阪医科薬科大学, 医学部, 講師 (80268193)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 鉄硫黄クラスター / 鉄硫黄タンパク質 / 出芽酵母 / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
2021年度は、バクテリアのFe-Sクラスター生合成系であるNIFマシナリーを酵母のサイトゾルで発現させた後に、ミトコンドリアISCマシナリーの必須成分であるJAC1とNFS1遺伝子の破壊を試みたところ、前者は破壊できたが、後者は破壊できないという結果になった。本年度、その要因を探るために種々の検討を行ったところ、JAC1遺伝子は、嫌気的な条件下であれば、NIFマシナリーの有無に関わらず破壊できることが判明した。一方、NFS1はシステイン脱硫黄酵素として、ミトコンドリアのFe-Sクラスター生合成系に硫黄を供給するだけでなく、サイトゾルや核のtRNA硫黄修飾系にも硫黄を供給することが知られている。そこで、ミトコンドリアへの移行配列を除去したNFS1のコピーをNIFマシナリーと共に酵母のサイトゾルで発現させ、ミトコンドリア型の正常なNFS1遺伝子を破壊するという実験を進めたが、これまで成功していない。 そこで、別のFe-Sクラスター生合成系であるSUFマシナリーを酵母のサイトゾルで発現させた後に、NFS1遺伝子の破壊を試みたところ、この遺伝子の破壊株を初めて構築することができた。今回導入したSUFマシナリーは、嫌気条件下で遊離のS2-を硫黄源として機能するタイプを用いたが、得られたNFS1破壊株の表現型は、導入したSUFマシナリーの特性に合致していた。さらに、破壊株の表現型から、ミトコンドリア内のFe-Sタンパク質群(グルタミン酸合成酵素など)は機能していないが、サイトゾルや核のFe-Sタンパク質群は正常と推定された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
SUFマシナリーを酵母のサイトゾルで発現させることによって、遂に、酵母のNFS1遺伝子を破壊することができた。すなわち、サイトゾルに導入したSUFマシナリーによって、ミトコンドリアISCマシナリーの必須機能をバイパスすることができたと考えられる。このISCマシナリーは、出芽酵母のミトコンドリアにおいて、唯一の必須機能と言われている。ミトコンドリア全体の機能をもバイパスできるのではないかという可能性が、いよいよ現実味を帯びてきた。
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今後の研究の推進方策 |
出芽酵母に導入したSUFマシナリーがサイトゾルで機能していれば、ミトコンドリア全体が無くても生育できる可能性がある。ミトコンドリアタンパク質の99%は核にコードされ、サイトゾルで前駆体タンパク質として合成された後に、ミトコンドリア内に輸送されることが知られている。そこで、輸送経路で中心的な役割を果たしているTIM23の遺伝子を欠失させることができれば、ミトコンドリアはいずれもぬけの殻となり、最終的にミトコンドリアそのものを欠失できるのではないかと考えられる。今後は、SUFマシナリーを発現させた出芽酵母株で、TIM23遺伝子の破壊に挑戦する。
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次年度使用額が生じた理由 |
NIFマシナリーを酵母で発現させた場合には、JAC1は破壊できたがNFS1は破壊できないという想定外の現象に遭遇し、予定を延長して慎重に検討を行ったため残金が発生した。2023年度に、破壊株の構築に必要な合成オリゴDNAやクローニングに必要なキット・試薬の購入、また種々の培養条件や破壊株の性質を検討するための費用にあてる計画である。
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