ジフタミド化は全ての真核細胞翻訳伸長因子eEF2にのみになされる特殊な化学修飾である。酵母のジフタミド酵素変異体では翻訳の忠実度が下がり、-1フレームシフト翻訳の頻度が上昇するが、その調節機構や生理的な意味に関しては不明な点が多い。特に多細胞生物においての研究は遅れている。我々は、これまでショウジョウバエ腸の恒常性維持にeEF2ジフタミド化を触媒する酵素の一つDph5が関わること、eEF2ジフタミド化はRasV12による腸幹細胞の過増殖に必要であることを見出した。様々なウイルスはフレームシフトによって読み枠を変えることで産生するタンパク質の種類を増やすことが知られているが、コロナウイルスゲノムRNAはその塩基配列に-1フレームシフトを可能にする情報が含まれている。初めはORF1aポリプロテインが作られるが、-1フレームシフトをおこすことによってORF1bポリプロテインが作られる。SARS-CoV-2のORF1aとORF1bの間にあるFrame Shift Element (FSE)として機能すると予想される配列を用いてORF1aとしてmRuby3を、ORF1bとしてmNeonGreenを繋いだプローブを作成し、哺乳類培養細胞およびショウジョウバエで発現させた。培養細胞においてDph1の発現量がeEF2のジフタミド化修飾及び-1フレームシフト効率に影響を与えること、ショウジョウバエ個体での-1フレームシフト効率に性差や組織特異性があること、ショウジョウバエ個体内におけるジフタミド修飾の阻害が-1フレームシフトに影響を与えることを見出した。
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