本研究では、可視光に応答して脂質二分子膜を変形する分子機械を基盤とする、遺伝子光導入法の開発を行う。2022年度では、人工的に構築したリポソームと細胞を用いた膜間物質導入実験を行った。前年度に開発した、可視光に応答して内側への膜陥入を誘導する、ジアゾシンコア骨格からなる光駆動分子機械を基盤に、その構造修飾による膜変形挙動の拡張を試みた。開発した分子機械は2本足構造から成る両親媒性骨格を持ち、光に応答して開閉運動を示す。脂質二重膜中にも異方的に挿入され、膜中においても可視光に応答した異性化反応を示す。巻く中では、光に応答してその表面積を変化させることが気液界面測定より示された。開閉運動の向きを制御することで、膜の内側への陥入に加えて、膜融合など、多様な膜変形を誘起できることを見出した。分子機械の親水部は電荷を帯びており、膜表面の静電的な性質を制御することで分子機械と膜表面の接着を制御することができる。静電効果を利用して、膜接着状態で光照射を行うことで、膜面積の変化で誘起される膜融合を効率的に起こすことができた。低分子化合物に加え、マイクロメートルサイズの物体の膜輸送も可能であることが示された。このことは、本システムが輸送キャリアとして高い有用性を持つことを示す。リポソーム膜に加えて、細胞膜に対する膜融合実験も開始した。現在、分子機械添加濃度、表面電荷、照射光の波長などの条件を検討している。
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