研究課題/領域番号 |
21K19214
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
山崎 昌一 静岡大学, 電子工学研究所, 教授 (70200665)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | 単一細菌解析 / 抗菌ペプチド / 抗菌活性 / 殺菌活性 / 生体膜の生物物理学 |
研究実績の概要 |
生物が産生するペプチドで細菌などの微生物を殺す活性を持つ抗菌ペプチドの抗菌活性の測定は、従来、最小発育阻止濃度(MIC)の測定やタイム-キル・アッセイなど細菌の集団を用いての長時間の測定が用いられてきた。本研究では、1個の細菌と抗菌ペプチドの相互作用と、細菌の細胞死の相関を研究するために、単一細菌レベルでの抗菌活性測定法を開発した。 まず、スライドガラス上の小さなマイクロチャンバーの寒天培地上で大腸菌を培養し、1個の細菌からスタートして増殖した細菌の集合体であるマイクロコロニーを光学顕微鏡で観測し、マイクロコロニーごとの細菌の数の時間変化を測定した。その数は幅の広い分布をしたが、その平均の細菌数の時間変化から求めた世代時間は、懸濁液の細菌の増殖曲線の解析から得られた世代時間とほぼ一致した。 次に、種々の濃度の抗菌ペプチド・マガイニン2存在下の大腸菌の懸濁液を上記の方法で一定時間培養したのちに、マイクロコロニーごとの細菌の数の分布を測定した。1個の細胞しか持たないマイクロコロニーの割合(Psingle)は、マガイニン2の濃度とともに増加し、ある濃度以上でPsingle = 1となった。この濃度は単一細菌レベルでの抗菌活性測定法におけるMICに相当し、これは標準のMIC測定法から求めた値とほぼ一致した。 次に、種々の濃度のマガイニン2と大腸菌を懸濁液中である時間相互作用させてから、十分に希釈して、それを上記の方法で培養した。細菌がマガイニン2との相互作用で死んでいる場合は増殖ができないが、マガイニン2存在下で増殖が止まっただけであれば、希釈後にまた増殖が起こると考えれる。相互作用の時間が増加するにつれて、Psingleは増加し、やがて1に達した。Psingle = 1はすべての細胞が死んだことを示している。したがって、この方法により1個の細菌の細胞死を測定することができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単一細菌レベルでの抗菌活性測定法を開発し、それを用いて抗菌ペプチド・マガイニン2の大腸菌に対する抗菌活性や殺菌活性を測定することに成功した。この単一細菌解析法では、1個の細胞しか持たないマイクロコロニーの割合(Psingle)が重要なパラメーターであることを見出した。現在、論文を投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)抗菌ペプチドによるポア形成などの細菌の細胞膜の損傷と細胞死との相関を調べるために、水溶性の蛍光プローブ・カルセインなどを細胞質に注入した細菌1個と抗菌ペプチドとの相互作用を共焦点レーザー顕微鏡や高感度CMOSカメラを搭載した蛍光顕微鏡で研究し、細胞膜の損傷の速度を実験的に求める。この1個の細菌の細胞膜の損傷の速度と単一細菌解析法で求めた細菌の殺菌速度を比較し、その相関について検討する。また、細胞膜の損傷を起こした細菌を単一細菌法で培養して、マイクロコロニーを構成する細菌の数の分布の時間変化を解析し、損傷を起こしていない場合の細菌の場合と比較する。
(2)本年度構築した単一細菌法を用いて、他の抗菌ペプチド(細胞膜に損傷を起こすPGLa や細胞膜透過性のあるラクトフェリシンB (4-9)など)による細菌の抗菌活性や殺菌活性を調べる。さらに、上記(1)の方法で抗菌ペプチドの単一細胞の細胞膜の損傷速度を測定し、それと単一細菌の殺菌活性との相関を調べる。また、ラクトフェリシンB (4-9)は細胞膜の損傷はないので、その代わりに単一細菌への細胞質への侵入速度と単一細菌の殺菌活性の相関を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度に学術研究員を雇用する必要が生じたため、本年度の使用額を節約して次年度に移行した。
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