研究課題/領域番号 |
21K19223
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山元 淳平 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (90571084)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | DNA修復 / DNA損傷 / 人工酵素 |
研究実績の概要 |
DNA修復酵素である光回復酵素は、その活性に生体透過性が低い青色光が必要である。天然の光回復酵素は、集光アンテナ分子と呼ばれる第2の発色団を保有し、集光アンテナ分子からフラビン補酵素へのエネルギー移動によって、酵素活性を向上させることが知られている。そこで、青色蛍光タンパク質(BFP)遺伝子を光回復酵素遺伝子の中に適切に組み込むことで、光回復酵素としての機能を損なうことなく、青色光受容能力を向上させ、さらに近赤外光にも応答しうる人工DNA修復酵素の開発に取り組んだ。 まず、天然の光回復酵素がどのように集光アンテナ分子を認識・利用しているのか、種々検討した。その結果、集光アンテナ分子の結合に伴い、タンパク質中のループが閉じることで、集光アンテナ分子の配向を固定することを見出した。分子認識に関与するアミノ酸に変異導入すると、DNA修復能が大幅に低下したことから、天然の酵素は集光アンテナ分子を効率よく利用できるよう最適化されていることがわかった。 次に、光回復酵素のさまざまな位置に青色蛍光タンパク質遺伝子を導入した。予試験の結果、光回復酵素遺伝子にBFP遺伝子を導入すると、光回復酵素のDNA修復能が失われることがわかったので、修復能に影響がない導入位置のスクリーニングは、DNA修復活性を喪失した大腸菌株を用いて行なった。70以上のプラスミドを作成しスクリーニングに供したところ、うち一つについて、野生型と同程度のDNA修復活性を保有する人工酵素遺伝子配列を決定できた。遺伝子組換えタンパク質として調製し試験管内にてDNA修復活性を評価したところ、この人工酵素は天然由来の集光アンテナ分子を持たないにも関わらず、集光アンテナ分子を保有する野生型酵素と同程度の修復活性を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光回復酵素の構造および修復活性を保ちつつ、BFPをタンパク質中に導入することは、予試験の結果からかなり困難なのではないかと考えていたが、本年度内にそのような人工酵素の探索に成功したことから、進捗は順調であるといえる。また、BFPの他に人工蛍光色素をタンパク質中に導入することで、最大4倍程度、酵素活性を向上させることにも成功しており、こちらについては2022年度内に論文投稿を行う。
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今後の研究の推進方策 |
光回復酵素は、シクロブタン型ピリミジンダイマーおよび(6-4)光産物と呼ばれる紫外線損傷DNAを選択的に修復するCPD光回復酵素と(6-4)光回復酵素に分類される。2021年度はCPD光回復酵素にBFPを導入することに成功したことから、(6-4)光回復酵素についても同様の戦略にてBFP導入人工酵素のスクリーニングを行う。これにより、遺伝子材料のみで紫外線損傷DNAを高効率に修復できる人工酵素シリーズを作成する。 単離したBFP導入CPD光回復酵素について、800ナノメートルの近赤外レーザー光を用いたDNA修復活性を評価する。並行して人工酵素の結晶化を試み、その三次元構造解析に供することができるか検討する。これにより、BFPから補酵素へのエネルギー移動の効率を計算科学の立場から評価する。 また、今回得られたBFP導入CPD光回復酵素遺伝子を、色素性乾皮症A群患者由来の細胞株に導入することで、紫外線感受性に変化があるか細胞レベルで評価する。まずは、エピソーマルプラスミドによる遺伝子導入と評価を行い、紫外線感受性の向上が認められた場合は、CRISPR-Cas9ゲノム編集システムによってAAV1セーフハーバーへの遺伝子導入を行う。
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