本研究では、紫外線損傷DNA修復酵素である光回復酵素の高機能化を目指し、青色蛍光タンパク質(BFP)遺伝子を光回復酵素遺伝子の中に加えた人工DNA修復酵素の開発を行なった。様々な箇所にBFPを導入した人工酵素のDNA修復活性のスクリーニングは大腸菌生存活性から評価した。約70種類程度のプラスミドを作成したところ、その大半が野生型よりも活性が低く、BFP導入により酵素の三次元構造が正常ではなくなったことが示唆された。その一方で、6種類のプラスミドでは、野生型と同程度の生存率を示したため、遺伝子組換えタンパク質として得たのちに試験管内にてDNA修復活性を評価した。これらの多くは野生型と同程度もしくは野生型よりもやや低い修復活性を示したものの、一つの人工遺伝子では、野生型の2倍のDNA修復活性を持つことがわかった。 BFPに由来する蛍光スペクトルはDNA修復活性に必要な二電子還元型FADの吸収スペクトルと重なりがあるため、このDNA修復効率の向上はBFPからのエネルギー移動に起因することが考えられた。そこで、上記人工酵素のBFP発色団の形成に関与するアミノ酸側鎖に変異を加えることで、DNA修復効率が低下するか調べた。その結果、DNA修復活性は変異の前後で変化しなかった。このことから、DNA修復活性の向上はBFPに起因するものではなく、おそらくBFP導入による酵素三次元構造の微細な変化によるものである可能性が示唆された。 当初の目的であるBFPからのエネルギー移動を介したDNA修復反応の高効率化を達成する人工酵素は得られなかった一方で、野生型よりも高効率にDNA修復を行うことができる人工酵素の開発には成功した。今後、その分子論的な理由づけを行う必要がある。
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