研究課題/領域番号 |
21K19224
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
後藤 祐児 大阪大学, 国際医工情報センター, 特任教授 (40153770)
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研究分担者 |
八木 寿梓 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (10432494)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | ポリリン酸 / 蛋白質 / 生体分子 / 凝集 / 変性 / アミロイド線維 / 過飽和 / 溶解度 |
研究実績の概要 |
(1)ポリリン酸に対する抗体作製:マレイミド基を持つポリリン酸を化学合成し、これを血清アルブミンなどのキャリア蛋白質に結合させて抗原とすることを計画しているが、マレイミド導入ポリリン酸の合成効率が悪いため、進んでいない。 (2)液液相分離:ポリリン酸は酵母においては液液相分離を引き起こし、「ポリリン酸グラニュール」を形成することが知られている。これを追求する中で、デキストラン(DEX)とポリエチレングリコール(PEG)のドロップレットが、αシヌクレインのアミロイド線維形成を強く誘導することを見出した。ドロップレットによるアミロイド促進モデルとして、DEX/PEGの作用機構を検討した。 (3)ポリリン酸の効果の分子機構:αシヌクレインに対するポリリン酸の効果を中性pHで詳細に検討した。ポリリン酸によるアミロイド線維形成には、陰イオンとして正電荷と相互作用することによって蛋白質の電荷の反発を抑制してアミロイド線維を形成する場合と、リン酸の塩析効果によってアミロイド線維を形成する場合の2つの機構がある。ポリリン酸によるアミロイド線維形成が、他の添加剤と同様に、溶解度と過飽和に基づくアミロイド線維形成によって起きることを示した。 (4)ポリリン酸と同様に多価のリン酸基を持つ化合物として、ATP、ADPなどがあり、これらはハイドロトロープと呼ばれ、疎水性基を溶かし込み、蛋白質凝集を抑制することが報告されている。本研究においてATPのαシヌクレインに対する効果を調べたところ、むしろアミロイド線維の形成を促進する効果が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の開始以前に、単独ポリリン酸に対してウサギ抗体の作製を試みたが効果的な抗体を作製することはできなかった。そこで、本研究においては、マレイミド基を持つポリリン酸を化学合成し、これを血清アルブミンなどのキャリア蛋白質に結合させて抗原とすることを計画しているが、マレイミド導入ポリリン酸の合成効率が悪いため、進んでいない。他方、ポリリン酸の作用機構の理解に関しては、当初の計画通り進捗している。さらに、デキストラン(DEX)とポリエチレングリコール(PEG)のドロップレットが、αシヌクレインのアミロイド線維形成を強く誘導することを見出した。
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今後の研究の推進方策 |
ポリリン酸に対する抗体作製計画は遅れている。他方、ポリリン酸が形成する「ポリリン酸グラニュール」(液液相分離で形成されるドロップレットに相当)を検討する中で、DEX/PEGドロップレットがアミロイド線維の形成を著しく促進することが明らかになった。ポリリン酸に対する抗体作製が困難な場合には、DEX/PEGドロップレットに関する研究も推進する。また、ポリリン酸の作用機構に関しては、当初の計画通り進める。これにより、ポリリン酸やドロップレットに依存した蛋白質凝集とその生理的意義に関する独創的な成果を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
ポリリン酸抗体の作製が予定通り進行しなかったために、これに関連する物品費を執行しなかった。また、コロナ禍により国内外の学会が中止あるいはオンライン開催となり、旅費を執行しなかった。「次年度使用額(B-A)」については、翌年度分と合わせて、ポリリン酸効果の分子機構、DEX/PEGドロップレットに関する研究を重点的に進める。
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