研究課題/領域番号 |
21K19226
|
研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
塚崎 智也 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 教授 (80436716)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
|
キーワード | 膜蛋白質 |
研究実績の概要 |
細胞質で合成された新規のタンパク質の多くは、生体膜を越えて輸送されていく。この輸送は「タンパク質の膜透過」とよばれ、必須の生体内機構の一つである。細菌では、SecYEG複合体(タンパク質膜透過チャネル)とSecA ATPase(駆動モータータンパク質)が複合体を形成し、タンパク質を膜透過させている。これまで構造生物学的解析によって、この反応に関わる因子の詳細構造と機能について研究を進めてきたが、未だ基質タンパク質がどのように輸送されているのかその分子メカニズムは解明されておらず、1ユニット(反応最小単位)での精密な動的観測が必要とされている。本研究では、生物物理学的な観点から、ATP駆動型タンパク質膜透過の本質にせまるためナノディスクと呼ばれるナノ粒子を用いて原子間力顕微鏡(AFM)でタンパク質の膜透過を測定した。具体的な研究手法を次に示す。 1ユニットを構成する膜タンパク質は疎水性が高いため、そのまま高速AFMの測定には適さない。脂質とともにナノディスクのなかに埋め込ませることでこの1ユニットを安定させ測定に用いた。基質タンパク質は、特殊な条件下で精製を行なったもので、生体内ではすみやかに分解されるシグナル配列を持った状態かつアンフォールドした状態を保っている。1ユニットを再構成したナノディスクに、この基質タンパク質とATPを加えて反応を開始させた。その後、タンパク質膜透過反応における時間依存的な1ユニットの構造変化を高速AFMで追跡した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究で最も難関である高解像度での高速AFMを用いいた測定が可能となり、今後計画通り測定を行える目処がたったため。
|
今後の研究の推進方策 |
Secタンパク質は生育に必須の因子であることから多くの研究が進められているが、未だタンパク質の"膜透過の力"を測定できていない。その原因としてSecYEGとSecAの複合体形成は過渡的な集合・離散を繰り返し、また膜に組み込まれたSecYEGは膜内を自由に動き回ることがあげられる。よって、精密な解析には1ユニットに着目して追跡する必要がある。純化した安定な1ユニットの構築をすることができれば、測定が可能であると考えられる。そこで、ナノディスクと呼ばれるナノ粒子に着目し予備的な解析を進めてきた。1ユニットを再構成したナノディスク上でタンパク質の膜透過を再現することができたため、次の段階へと移していく。まず、時間分解能・空間分解が高くなる条件下で、原子間力顕微鏡を用いてその動態の観察を進めていく。また、基質として一部フォールディングしたタンパク質を用いることで、アンフォールドしながらタンパク質を輸送すると考えられる。これを用いれば、計算でタンパク質の膜透過の力を推定することができる。今後は、これらの準備を進めていく。さらに、本研究で安定に1ユニットでの測定系が完成すれば、これまで適応できなかった1分子蛍光観察でドメインの動きの測定や、基質ごとの膜透過の速度の計測など、様々な生物物理学的な手法で、このタンパク質の膜透過の精密探査が可能となり、当該分野のブレークスルーとなる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナなどの影響により、予定通り研究を進められないところがあったため次年度使用額が生じた。遅れた研究と合わせて、次年度に研究を進めていく。
|