研究課題
繊毛は単細胞生物ゾウリムシから高等動物の気管上皮、卵管等にまで普遍的に存在する。 細胞表面の多数の繊毛それぞれの前後非対称な屈曲により水流が生じ、ゾウリムシは遊泳し、気管では異物を排出、卵管では卵子を子宮に運搬する。繊毛は1本1本が独立に運動しているにも関わらず、隣接した繊毛は一定の位相差を保って屈曲する。このため屈曲が波として伝播する。この伝播する屈曲の波はメタクロナールウェーブと呼ばれる。ゾウリムシ体表を伝播するMWの方向は、外液の粘性に依存して変化する。この事実は、まるでメタクロナールウェーブに発振源が存在し、それが外液の粘性に依存して移動することを示唆している。しかし、ゾウリムシの体表に発振源となる構造が存在するとしても、それが移動するとは考えにくく、繊毛のメタクロナールウェーブの伝播方向決定メカニズムは現在も不明である。研究代表者は、もし発振源が2つあれば、発信源が移動しなくても、双方からの波同士の干渉で伝播方向が制御可能ではないかと着想した。応募者はゾウリムシのメタクロナールウェーブが細胞前端と口部という2つの発振源からの波の干渉によって生じると推察し、本研究ではこの仮説を実証することを目指している。今年度は、この仮設を実証するために、2次元平面でメタクロナールウェーブを観察可能な、ゾウリムシの表層シートを作成し、細胞前端部と細胞後部という2つの箇所からの波の発振を観察した。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナウイルス感染症の流行により、各種研究集会が現地開催されず新しい知見を得ることが難しかったが、オンラインの開催による学会等からの知見の収集方法にも慣れ、順調に研究を遂行させることができた。
細胞表層シートでの2次元平面でのメタクロナールウェーブの伝播を詳細に観察することと、それらを独立に阻害することで合成波の様子がどのように変換するかを観察する。
新型コロナ感染症の流行の影響で学会年会等、研究集会が現地開催ではなくオンラインであったため旅費が不要であった。また、研究試薬など消耗品が研究室在庫でまかなえ、学生アルバイトも不要であったため、次年度使用額が生じた。次年度には、研究補助員の雇用、学会の現地参加旅費等を計画的に予定し、研究費を有効に利用する。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件)
Science Advances
巻: 7 ページ: eabg8585
10.1126/sciadv.abg8585
PLoS Computational Biology
巻: 17 ページ: e1009237
10.1371/journal.pcbi.1009237