研究課題/領域番号 |
21K19236
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研究機関 | 横浜市立大学 |
研究代表者 |
明石 知子 横浜市立大学, 生命医科学研究科, 教授 (10280728)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 膜タンパク質 / ネイティブ質量分析 / タンパク質複合体 |
研究実績の概要 |
本課題では、膜タンパク質を大量発現系で調製後、精製せずに膜に結合したままの状態で取り上げ、候補化合物との結合の解析を行うための高スループットな実験系の構築を目指す。そのためには、精製した膜タンパク質が特異的に結合するリガンドや情報伝達に関わる分子と形成する複合体を、ネイティブ質量分析で確かに観測できることを、予め確認しておく必要がある。そこで、大腸菌で発現させたRhodopsin(横浜市大・朴教授との共同研究)をミセル化して精製後、ネイティブ質量分析用に溶媒交換しネイティブ質量分析で観測することを試みた。その結果、レチナール結合型のRhodopsinを観測するためのパラメータなど最適化し、インタクトな状態で観測することができた。次に大腸菌で発現させた膜内プロテアーゼRseP(横浜市大・禾准教授との共同研究)、バキュロウィルス生産系で発現させたGタンパク質共役受容体(GPCR)のひとつb2AR(理研・嶋田TLとの共同研究)についても、ミセル化して精製後にネイティブ質量分析での条件検討を行った。RsePについては3種類の原核生物のオルソログでのマススペクトル測定に成功し、大腸菌RsePに対する特異的な阻害剤との複合体の観測にも成功した。一方で、b2ARはRhodopsinとは異なり非共有結合でリガンドと結合するため、安定な複合体として観測することが極めて難しいことが分かった。そのため、細胞質側から結合するminiGタンパク質等と結合させ三者複合体として調製して検討することとし、試料調製の条件検討に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
RhodopsinおよびRsePについては、予定していた以上の進展が見られた。 一方、b2ARは、精製した状態でも薬剤との複合体のネイティブ質量分析に成功している研究グループは世界的に見ても存在しない。私たちも、これまで試料調製法や測定条件を種々検討しているがこれまでに成功していない。そこで方針を見直し、薬剤の侵入する方向の裏側にあたる細胞質側からminiGタンパク質等を結合させて安定させた後、薬剤との複合体を観測することを試みることにした。現在、miniGタンパク質等調製法を確立し、b2AR-薬剤‐miniGタンパク質の三者複合体の調製を検討している。このような方針の見直しを行った後は、順調に進展している。 以上から、全般的に「おおむね順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
RsePについて、3種類すべてのオルソログで精製後、薬剤との複合体のネイティブ質量分析のデータが揃い次第、論文化する。並行して、膜画分で複合体を形成後、直接ネイティブ質量分析を行うことをRsePについて試みる。 b2ARについて、精製した状態でb2AR-薬剤‐miniGタンパク質の三者複合体のネイティブ質量分析による観測のための諸条件を最適化する。この状態でアゴニストおよびアンタゴニストの結合の強さについて半定量的に解析することが可能かを検討する。この検討の後に、膜画分からミセル化しないで薬剤との複合体およびb2AR-薬剤‐miniGタンパク質の三者複合体のネイティブ質量分析による観測の検討を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の予算で購入を予定していたクロマト関連装置(約1,000千円)が新型コロナウィルス感染症の影響で、発注したものの納入されなかったので、今年度の執行とはならなかった。実験に使用する質量分析装置等、機器の修理に必要とする経費がかからなかった。新型コロナウィルス感染症の流行により、国内外の出張が行われず、旅費の執行がなかった。以上から、執行計画を見直し、次年度へ繰り越す使用額が生じた。
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