研究課題
ファイトプラズマ(Candidatus Phytoplasma属細菌)は、植物や昆虫の細胞内に寄生する絶対寄生細菌であり、両宿主に交互に感染するホストスイッチングによって感染範囲を拡げる。植物に対しては病気を引き起こし、世界中で多くの作物に被害を与えている。一方、昆虫がファイトプラズマに感染しても病状は全く現れず、逆に寿命が延びたり、高齢になっても活発に産卵するなどの「アンチエイジング効果」が現れる。本研究では、ファイトプラズマのゲノムにコードされるタンパク質の中から老化を抑えるアンチエイジング因子を探索することを目的とする。ファイトプラズマは植物・昆虫の細胞内に寄生するため、ファイトプラズマから分泌されたタンパク質は宿主の細胞質で直接的に機能する。分泌シグナルを持つタンパク質は宿主を操作するアンチエイジング因子の最有力候補であるため、ファイトプラズマゲノム上にコードされる分泌タンパク質を探索し、その機能を解析する。令和3年度は、JHP系統のファイトプラズマの分泌タンパク質の探索を試みた。一般的に分泌タンパク質の多くはPMU(potential mobile unit)と呼ばれる遺伝子クラスターにコードされていることから、JHPゲノムに存在するPMU領域の塩基配列を解読した。PMUにコードされるtmk,tra5,dnaB,hflB,ssb遺伝子のコンセンサス配列をもとにプライマーを設計し、PMU領域をシーケンス解析したところ、計7個の分泌タンパク質を発見し、HYDE1~7と命名した。HYDE1、およびHYDE2の細胞内局在を調べるために、YFP-HYDE1、YFP-HYDE2融合タンパク質をそれぞれNicotiana benthamianaで一過的に発現させたところ、HYDE1は核と細胞質に、HYDE2はおもに細胞質に局在することが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度は、ファイトプラズマの分泌タンパク質の塩基配列を探索し、それらの細胞内局在を調べた。ファイトプラズマは難培養性であるため、次世代シーケンサーを用いてゲノム解読しても、その多くは植物由来のDNAであり、ファイトプラズマの分泌タンパク質を効率的に探索することが困難であった。そこで分泌タンパク質の多くがPMUと呼ばれるゲノム領域にコードされることを利用して、効率的に分泌タンパク質を同定することに成功した。本成果は、ファイトプラズマの分泌タンパク質を同定するための新たな手法であり、おおむね順調に進展しているとの評価とした。
ファイトプラズマは植物・昆虫の細胞内に寄生し、またペプチドグリカン等の細胞壁を持たないため、ファイトプラズマから分泌されたタンパク質は宿主の細胞質で直接的に機能する。従って、分泌シグナルを持つタンパク質は宿主を操作する因子の最有力候補である。2021年度の研究により、分泌タンパク質をコードする遺伝子を探索し、それらの細胞内局在を明らかにした。今後は、分泌タンパク質と相互作用する宿主側因子を探索することを試みる。分泌タンパク質をbaitとして用いた酵母two-hybridシステムを構築し、宿主側の因子を探索する。陽性クローンについては、蛍光タンパク質再構成法(BiFC法)を用いて結合を検証するとともに、遺伝子産物に対する抗体を作出し、免疫沈降実験によって相互作用を再確認する。
発注した消耗品の納期が遅れ、年度内に納品されなかったため、次年度に支払うこととした。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 1件、 招待講演 3件) 図書 (1件)
Journal of General Plant Pathology
巻: 87 ページ: 154~163
10.1007/s10327-021-00993-z
巻: 87 ページ: 403~407
10.1007/s10327-021-01027-4