研究課題/領域番号 |
21K19240
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研究機関 | 福井工業大学 |
研究代表者 |
柏山 祐一郎 福井工業大学, 環境情報学部, 教授 (00611782)
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研究分担者 |
藤原 崇之 国立遺伝学研究所, 遺伝形質研究系, 助教 (10595151)
中澤 昌美 大阪府立大学, 生命環境科学研究科, 講師 (90343417)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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キーワード | 難培養性微生物 / ゲノム編集 / 原生生物 / ユーグレノイド / 混合栄養 |
研究実績の概要 |
本研究は,実験細胞としての利用に資する効率的培養が困難である難培養性の原生生物を対象として,吸収栄養により有機物を摂取する能力を付与する遺伝子改変をおこない,培養効率と実験材料としての操作性を劇的に改善させるという方法論の確立を目指すものである。より具体的には,異なる栄養摂取様式を採りながら,進化的に互いに近接する姉妹系統のユーグレノゾア生物である絶対的に餌細胞を要求する食作用性従属栄養生物Peranema(以下「ペラネマ」),食作用性混合栄養生物Rapaza(以下「ラパザ」),純粋な光独立栄養性生物Eutreptiella(以下「ユートレプチエラ」)について,最終的に実験モデル生物化することを目指すものである。 本年度は,このうち,研究対象として最も高いインパクトが期待できるラパザに関して,(1)CRISPR-Cas9ゲノム編集による安定形質転換系の確立と,(2)細胞膜糖輸送体タンパク質を導入した形質転換株の作出の2項目について着手した。このうち(1)に関しては,典型的なCas9タンパク質を用い,sgRNAとin vitroでRNPを作成してエレクトロポレーションで細胞核内に導入することに成功し,結果として非常に高い確率でノックアウト変異体を得ることができるようになった。また,同時にssODNを導入することで,HDRによる塩基配列の書き換えや短い配列のノックイン実験にも成功した。さらに,HDRを伴う複数箇所のCas9切断により,数百塩基程度の配列を正確にトランケートする手法の開発にも成功した。また,(2)に関しては,紅藻ガルデリア由来の膜輸送体遺伝子をラパザのゲノムDNAに導入することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラパザのゲノム編集の実験手法が順調に進み,具体的なノックアウト株や変異導入株が得られ始めている。また,外来の膜輸送体を細胞膜に発現させるためのアプローチについても,ラパザの確実な膜輸送体(硝酸輸送体)をゲノム編集を通して同定することができたため,この因子との融合タンパク質として導入する方策を立てることができた。現在,この目的でゲノム編集によるノックイン実験に既に着手している状況である。このように,ゲノム編集実験系を確立できたため,今後の研究をスムーズに進めることが見込まれる。さらに,同様なゲノム編集実験を近縁な藻類であるEuglena gracilisでも成功しており,同様の実験手法を次の研究ターゲットであるユートレプチエラにもそのまま適応できる見込みが高い。
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今後の研究の推進方策 |
【ラパザ】ラパザの硝酸輸送体に対してガルデリア由来の糖輸送体を融合発現させることで,これら2つの輸送体をラパザ細胞膜上に共発現させるゲノム編集ノックイン実験を進める。また,同様の融合タンパク質発現実験を,アミノ酸輸送体に関しても実施する。さらに,この硝酸輸送体のN末端側およびC末端側のLC領域それぞれをトランケートさせるゲノム編集実験により,このタンパク質が細胞膜に局在発現する上で必要なモチーフの理解を試みる。この結果を基に,外来のグルコースおよびアミノ酸の膜輸送体にラパザの細胞膜局在に必要な因子を付加させたものを導入して発現させる。これらにより,吸収栄養による従属栄養増殖を示す変異体の作出を試みる。 【ユートレプチエラ】ゲノム編集実験に必要なDNA-seqデータを取得し,ゲノム編集実験系の確立を目指す。また,細胞膜上の硝酸輸送体を同定し,ラパザと同様の形質転換実験を計画する。 【ペラネマ】ゲノム編集実験に必要なDNA-seqデータを取得する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究が予定よりもスムーズに進行したため,高額の消耗品を購入する必要がなくなった。また,研究成果を受けて,2022年度における補助員の雇用が研究の遂行に必須と見込まれたため,研究計画を一部変更して次年度に使用できるように工夫した。 2022年度には,2021年度に確立することのできたゲノム編集技術を用いて研究を加速させるため,研究補助員1名を雇用して同実験の業務に当たらせる。
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