繊毛虫であるテトラヒメナの遊泳は、ダイニン分子によって駆動される繊毛の屈曲運動によって実現されるが、詳細な分子機構は明らかではない。昨年度、テトラヒメナ個体の3次元遊泳を定量可能な光学顕微システムを確立し、Tetrahymena thermophila やTetrahymena pyriformisが右螺旋を描くように遊泳することを明らかにした。本年度は、昨年度に確立した光学顕微システムを用い、以下の3項目に関し研究が進展した。1)軸糸構成タンパク質の変異個体の遊泳を定量し、検討した全ての変異個体が右巻き螺旋遊泳を保ち、遊泳速度が遅くなった。周辺微小管同士を連結させる因子と関連のあるタンパク質を欠損させた変異個体では、方向転換の頻度が上昇し、この構成タンパク質が繊毛運動方向の制御にかかわることが示唆された。2)テトラヒメナの運動器官・繊毛の3次元運動を定量した。温度制御が可能な実験系、高速に反復運動(40 Hz)をする繊毛運動に特化した光学系、及び、マイクロピペットで細胞個体を捕捉する機構を確立し、個体が生きたままの状態の繊毛1本が示す3次元運動軌跡を取得した。繊毛虫繊毛においては、従来観察が困難であった回復打の3次元軌跡を明らかにした。本研究成果は国際学術誌に投稿中である。3)繊毛運動を駆動する外腕ダイニンの自転運動特性を見出した。T. thermophilaの繊毛から単離した外腕ダイニン(22S dynein)によって駆動される微小管の運動を広視野条件下で画像化し、その軌跡を解析した。加えて、微小管長軸に沿ったダイニンの螺旋運動特性に関し、細胞質ダイニンやキネシンとの相違を明らかにした。これらの研究成果の一部を国際学術誌で公表した。
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