本課題は、我々ヒトを含む有胎盤哺乳類の体内にみられる、母親の細胞(母由来細胞)の実態、そしてそれらの生理学的な役割を解明することを目的としたものである。 我々の体内に存在する母由来細胞は、母由来マイクロキメリズム細胞と呼ばれ、胎児期あるいは母乳を介して移入し、出生後も生涯にわたり全身の臓器組織に残り続けることが知られている。この母由来細胞野生理学的役割として、母児間での免疫学的衝突の回避、胎児組織の組織再生が報告されている一方で、炎症性先天異常疾患の発症・悪化といった現象への関与が示唆されていおり、本来の生理学的役割は不明なままであった。また、何がきっかけでこのように一見相反する各現象に結びつくのかも未解明問題として残されていた。 本研究ではまず母親細胞の本来の役割を知るべく、出生後のマウスから母由来細胞を除去する実験を遺伝子組換え実験を通して行った。結果として、胎児免疫系の活性化が確認されたことで、母由来細胞は胎児免疫の過剰な活性化を抑制している可能性が示唆された。また、胎児に移入する母由来細胞集団のうちどの程度の割合を占めるのか、数は個体によって異なるのかをsingle cell RNAseqなどを活用して調べたところ、母親細胞を構成する細胞種の大半が免疫に関連する細胞であること、そしてそれが、遺伝的背景の近い同腹の兄弟姉妹間でも個体間に相当な細胞割合の差があることが判明した。 これら結果は、どのような細胞種の母親細胞が胎児に移入するかは、遺伝的背景が近くても環境要因により大きく変動すること、また、母由来細胞の主な生理学的役割としては胎児免疫の制御であることを示していると考えられた。
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