研究実績の概要 |
細胞間の競合現象「細胞競合」は、がん制御を担う重要な細胞間相互作用として認識されつつあるが、その分子基盤はいまだ不明な点が多い。本年度は、ショウジョウバエ上皮において、進化的に保存されたがん抑制性Hippo経路を不活化した細胞群が、細胞競合を介して正常細胞を駆逐してその領地を拡大する(スーパーコンペティション)現象を対象とした、2種類の大規模遺伝学的スクリーニング(I)正常細胞群の役割をターゲットとした“細胞非自律的”スクリーニングおよび(II)スーパーコンペティションの “場(がん微小環境)”を成立させる因子の遺伝学的スクリーニングを実施した。このうち、(I)正常細胞群の役割をターゲットとした“細胞非自律的”スクリーニングにおいては、Hippo不活化細胞群によるスーパーコンペティションを細胞非自律的に抑制する系統について解析を行い、Hippo不活化細胞群が周囲の正常細胞に対してオートファジーを誘発し、これにより、細胞非自律的な細胞死を誘導することが明らかとなった(Nagata et al., Curr. Biol., 2022)。また、Hippo不活化細胞群によるスーパーコンペティションを細胞非自律的に促進する系統についての解析も開始し、責任遺伝子として、細胞間相互作用に重要な役割を果たす遺伝子を同定した。現在、同定された責任遺伝子の突然変異により、Hippo不活化細胞群によるスーパーコンペティションが細胞非自律的に促進される仕組みを明らかにするドミナントモディファイヤースクリーニングを実施しているところである。また並行して、生体環境によるがん制御機構の理解を目指すために、がん微小環境を制御し得るショウジョウバエ血球系細胞についてRNAseq解析を行った。その結果、悪性腫瘍を複眼原基に誘導した体内の血球系細胞では自然免疫シグナルが活性化していることが分かってきた。
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