転写因子が標的遺伝子を活性化または抑制する際には、各々が標的に応じた適切な結合パートナーと複合体を形成することが重要である。ほ乳類Y染色体上の遺伝子Sryは、雄への分化を誘導する性決定のマスター転写因子である。しかし、1991年にSryが発見されてから約30年が経つにも関わらず、Sryが雄分化を誘導する際の機能的な結合パートナーは未だに同定されていない。本研究では、真の性決定遺伝子Sry-Tと結合するタンパク質を同定し、Sry-Tによる性決定の転写制御メカニズムの解明することを目的とした。 本年度は、これまでにBioID法から得たSry-Tと相互作用する可能性のある2つの候補遺伝子に着目し、各々の遺伝子の欠損マウスをゲノム編集により作出し、染色体XYの個体が雌に性転換するか、すなわちSry-Tの雄分化誘導能が阻害されるかを調べた。結果、うち1つの遺伝子について、そのホモ欠損体が性染色体XY型であるにも関わらず雌となることを見いだした。すなわちこの遺伝子がSryが機能する際に必須のコファクターである可能性が示唆された。 今後は、この遺伝子欠損マウスの胎生11.5日目の生殖線を用いてSry-TのChIP-シーケンスとRNAシーケンスを行い、候補分子のSry-Tのゲノム上の局在や転写制御への寄与を明らかにする。一連の実験を通して、Sry-Tによる性決定の転写制御メカニズムの実体を解明したい。
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