研究課題/領域番号 |
21K19264
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
柿本 辰男 大阪大学, 理学研究科, 教授 (70214260)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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キーワード | シロイヌナズナ / ペプチドホルモン / 受容体 / 細胞分化 |
研究実績の概要 |
植物細胞は、お互いの位置関係に応じて分化し、組織内で適切な細胞パターンを形成する。細胞の位置関係の認識には細胞間のシグナル分子が 重要な役割を果たすが、細胞パターン形成を理解できるほどには解っていない。維管束は複数の種類の細胞からなるが、構成細胞が位置に応じて分化するためには植物ホルモンやペプチドホルモンが重要であることがわかりつつある。これらの 組織の細胞パターンを作り上げるためのペプチドホルモンの同定と、その受容機構を解明することが目的である。本研究においては、お互いの位置関係を認識するためのシグナル分子候補として、細胞外ペプチド性シグナル分子に着目する。根の表皮細胞で は2つの皮層細胞の間の上に存在する表皮細胞が根毛へと分化するが、一つの皮層細胞に接する表皮細胞は根毛にならない。そこで、皮層細胞よりも内側で合成され、皮層細胞の隙間 から供給されるシグナルを認識しているのではないかと考えた。候補分泌ペプチドで、過剰発現や遺伝子破壊によって根毛を形成する位置に異常が出るものを見出したが、表現型が安定しないため、栽培条件などを再検討するとともに、多角的に研究を進める必要が生じた。また、維管束のパターンも分泌ペプチドによって調節されていることが私たちの研究でわかってきた。篩部前駆細胞で発現し篩部の形成を指令するDofタイプの転写因子の下流で発現しているCLE25, 26, 45の3重変異体では篩部領域が広がること、また、CLE25, 26. 45の受容体であるBAM受容体キナーゼの多重変異体、CIK共受容体の多重変異体の変異体でも同様の表現型があることを見出した。CLEペプチドが篩部になるべきではない位置に存在する細胞の篩部分化を抑制していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ペプチドホルモンによる維管束細胞形成位置の制御機構についてはペプチドの同定、ペプチドの発現制御、ペプチドの受容体、ペプチドの作用機構に至るまで研究に十分な進展が見られた。しかしながら、根毛形成の位置がペプチドホルモンで制御されているという作業仮説については、申請時の予備的実験結果の再現性が乏しいことが問題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
CLEペプチドによる維管束の細胞の位置認識と細胞分化の仕組みは順調に進んでいるので、解析対象のペプチドも増やして引き続き研究を進める。ペプチドホルモンによる細胞の位置関係に応じた細胞分化の制御機構において、根毛形成については大きな研究テーマの一つと考えているが、予備結果によって当初考えていた仮定の証明が難しくなっているため、推進方針を検討し、多角的に研究を進める必要がある。根毛を制御するペプチドホルモンの探索は継続しつつ、細胞関係を受容する機構に関しても幅広く調べる。SCM受容体は根毛パターン制御に関与していることがよく知られているが、共受容体についても検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
根毛の配置を制御すると考えていたペプチドについて、過剰発現および遺伝子破壊株の表現型が安定しないことが判明し、複数の系統の確立、再現性の検討や栽培条件の検討などを主に行うことになり、研究に遅れが生じた。維管束における細胞位置認識機構の研究は、遺伝子操作済みの系統の表現型の観察を中心に行った。以上については、既存の試薬などで実験ができるため、支出額は少ない。次年度は、一部の計画を見直し、さらなるペプチド遺伝子の機能解析、共受容体遺伝子に関する遺伝子操作などを進めるため、遺伝子操作試薬などの物品購入などに使用する。また、研究発表旅費なども必要である。
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